「習い事」としての野球はスーパーアスリートを育てる(前編)

[ 2018年12月20日 09:00 ]

野球教室で子供たちにキャッチボールでの投げ方を教える日本ハム・鶴岡
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 【君島圭介のスポーツと人間】日本代表を何人も輩出している九州のサッカー強豪校のコーチから聞いた何気ない話だ。

 サイドからのクロスボールに対し、ゴール前に詰めた選手が頭で合わせようとしてもタイミングが合わない。

 「空間把握能力っていうんですか。今の子供はサッカーはうまいけど、基本的な運動能力が足りないなあって思うことがあるんですよね」

 そしてコーチは続けた。

 「僕らは小さいときに野球もやっていた。あれで結構、勘を養えたと思うんですよ」

 幼少期から特定のスポーツに特化することが一流への近道だ。体操の内村航平は3歳、テニスの大坂なおみも3歳、競泳の池江璃花子も3歳、ボクシングの井上尚弥は6歳……。彼らは親の熱意と専門的知識のサポートで超一流まで上り詰めた。親の選択と子の才能が一致した奇跡だ。

 だからといって親が好きなスポーツの選手にしたいと思っても子供が同じ興味と情熱を持つとは限らない。そんな場合は、まずは基礎体力、基本的な運動能力を身に付けるため「習い事」として最初のスポーツを選ぶだろう。そして、現在の第一選択肢が水泳だ。

 小学館の育児雑誌による今年の調査では、小学生の男子で41・9%、女子でも33・9%が水泳を習い事にしているという。ベネッセの調査による「親が学習以外にさせたい習い事」では、全体1位の30%が水泳と回答した。

 結果的に水泳界は宝の山を抱え込むことになった。日本の小学生の4割近いスクール生の中から、親も見抜けない才能が発掘され、選手育成コースに抜てきされる。スーパーエリートの誕生だ。今の日本競泳陣の躍進は必然だろう。

 その構図はかつて野球界にも存在した。今となっては昭和の伝説だが、学校の男子ほぼ100%が野球で遊んでいた時代もあった。野球は優秀な遊びだった。サッカーでは上手な子がボールを独り占めしてしまうが、野球はプレー機会も平等だ。バットやグローブなど道具で工夫する楽しさもあった。だが、今はスポーツが遊びから「習い事」に変った。遊びの野球は人気があったが「習い事」としてはどうか。

 前記した小学館の調査でサッカーは男子の12%で7位。野球は圏外だった。野球が避けられる要因として、よく勝利至上主義が挙げられる。試合に勝つことが目的では、子供が野球を選ぶハードルとしては高い。

 スイミングスクールの指導者はプールに来た子を「才能を見抜いてやる」「五輪選手に育ててやる」とぎらぎらした目で見ているわけではない。泳げるようにしてあげたい。その一心ではないだろうか。結果として子供が集まり、逸材が育つ。

 現在の野球界が競技人口の減少を招いた最大の理由は、多くの指導者が「スポーツを出来るようにしてあげる」という大事な奉仕の精神を失ったからではないだろうか。=続=(専門委員)

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2018年12月20日のニュース