ソフトバンク・内川聖一が本物の犠打を見せてくれた

[ 2018年11月2日 15:52 ]

4回無死一、二塁、内川は大瀬良から送りバントを決める(撮影・大森 寛明)
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 【君島圭介のスポーツと人間】犠打はメジャー用語でも「a sacrifice(犠牲)」という。走者や次打者のために自己を犠牲にするという定義だが、犠打は勝利に必要な戦略だ。成功には高度な技術が必要で、決めれば大きな功績になる。バントのうまい選手がレギュラーを掴む姿を今まで何人も見てきた。

 つまり犠打は自己犠牲どころか、選手の価値を上げる積極的な打撃技術と考えていいだろう。それでもまれに本物の自己犠牲を目の当たりにすることがある。1日の日本シリーズ第5戦(ヤフオクドーム)の4回、ソフトバンクが0―1から2―1と逆転した直後、無死一、二塁の場面で内川が投前に犠打を決めた。超満員の観衆はどよめき、ベンチで指示した工藤監督は帽子を取ると最敬礼で内川を迎えた。

 「落ち着いて出来た」と内川は振り返ったが、公式戦の犠打は横浜(現DeNA)時代の2010年8月27日・中日戦以来だから2988日ぶりだ。天才打者とはいえ、日本シリーズの大舞台でそう簡単に決められるものだろうか。

 「自分の中で準備はしていた」と内川は続けた。準備とはいつ犠打の指示を受けても大丈夫な状態を保ってきたということだ。この8年間、内川はほぼ全試合の前に犠打の練習を続けてきた。

 「レギュラーで出ていれば年間500〜600打席入るが(バントは)1回やるかどうか。その1回のために、ということはしてきたと思う」

 バットを振る時間がもっと欲しいときも、体調がすぐれないときも、打撃練習や体のケアの時間とは別に「1回やるかどうか」のためにバント練習を続けてきた。その1回が8年間、訪れなくても内川は準備を怠らなかった。

 日本シリーズで見せたバントが内川の打席を犠牲にした作戦だとは思わない。8年間のバント練習。それに費やしてきた膨大な時間こそが、チームのために続けてきた内川の「犠牲」ではないだろうか。あの犠打は2988日分の犠牲の精神が作り上げた、本物の犠打だった。(専門委員)

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2018年11月2日のニュース