100年前のワールドシリーズは歴史の玉手箱 歴史はあの時大きく動いた

[ 2018年10月22日 16:50 ]

ワールドシリーズの開幕を待つボストンのフェンウェイパーク(AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】今から100年前のワールドシリーズは9月5日に始まった。やけに開催が早かったのは第一次世界大戦の影響。ドイツが休戦協定に調印して大戦が終結したのは11月11日で、大リーグはこのシーズンの試合数を減らしてワールドシリーズの早期開催を決断していた。

 大正7年だった日本ではのちに首相となる田中角栄が誕生。富山では米騒動が起こった年でもあった。

 1918年のワールドシリーズを制したのは今年も最後の舞台に駒を進めてきたレッドソックス。カブスを4勝2敗で退けて2年ぶり5回目の優勝を飾っている。第1戦と第4戦で勝ち投手となったのはベーブ・ルース。やがて大リーグの本塁打記録をヤンキースで樹立するルースは投手ながら第4戦では6番打者として出場。ワールドシリーズのラインアップに入った投手で、9番以外に名を連ねた投手は100年が経過した現在も彼1人しかいない。当時の試合の原稿を書いた記者も、まさかそんなことになるとは思わなかっただろう。

 レッドソックスは1919年シーズンのあとルースをヤンキースに放出。以後、2004年までワールドシリーズ制覇からは見離され、それはルースの愛称から「バンビーノの呪い」と呼ばれた。

 1918年のワールドシリーズで敗れたカブスは29、32、35、38年と再び大舞台に進出したがすべて敗北。ヤギの入場を拒んだことで知られる1945年に負けたときに始まった「ビリー・ゴートの呪い」は2016年に王者となるまで続いたので、100年前に対戦した両チームはいずれも長い長いトンネルの中で時を刻む日々を強いられた。

 米国の国歌は「The Star Spangled Banner(星条旗)」。ただし正式に国歌となったのは1931年になってからだ。

 米国のスポーツ界で試合前の国歌斉唱はどこにでも見られる光景。では初めて「星条旗」が競技場で演奏されたのはいつだったのか?実はそれが1918年のワールドシリーズだと言われている。

 ベーブ・ルースが勝利投手となった第1戦。7回に先攻のレッドソックスの攻撃が終わると、試合会場となっていたシカゴのコミスキーパークには海軍の音楽隊が入場してきた。冒頭でも記したように当時は戦時色が濃かった時代。国民の士気を鼓舞するために演奏されたのが「星条旗」だった。

 海軍で兵役に就いたことがあるレッドソックスのフレッド・トーマス三塁手(当時25歳)は国旗が掲げられている方向を凝視し、敬礼をして演奏を聴いていた。他の選手が見せたのは胸に手を当てるポーズ。それは1世紀を経過した現在も受け継がれている“礼儀”で、いわばスポーツ界の日常的光景はこの時に始まったとも言える。

 歴史はもうひとつ生まれていた。このシリーズの第4戦でベーブ・ルースに投げ負けたカブスのフィル・ダグラス(当時28歳)は2対2で迎えた8回の裏、自らの暴投でレッドソックスに1点を献上。ダグラスは1922年、八百長を仕組んだとして永久追放となったが、1918年のワールドシリーズも疑惑の対象となった。証拠がなかったために限りなく灰色に近い状況でしかないが、レッドソックスの勝利の裏側にはスポーツ界にはびこっていた“闇”が忍び寄っていた。

 あれから100年。1918年に優勝したレッドソックスはドジャースと覇権を争うことになった。世界大戦はないが、米国を取り巻く状況は決して穏やかなものではない。「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領は貿易戦争という名の争いを広げつつある。「ロシアが長年、条約違反をしてきた」として中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄する方針も表明。最悪の治安状態と言われる中米ホンジュラスからはメキシコなどを経由して約3000人が米国の国境を目指しており、内外の情勢は緊迫している。

 そんな中で開催される2018年のワールドシリーズ。さて100年先の記者たちが振り返ったとき、今年のシリーズはどのようなとらえ方をされるのだろうか?願わくば、呪いも罪も残さないクリーンな戦いであってほしい。試合前に奏でられる「星条旗」の意味をしっかりかみしめて、新たな1ページを歴史に書き加えてほしいと思う。

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には7年連続で出場。今年の東京マラソンは4時間39分で完走。

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