野球・ソフトは生き残れるか 24年パリ五輪 来年に迫る追加種目入り正念場

[ 2018年10月3日 09:30 ]

2020 THE TOPICS 話題の側面

侍ジャパンの稲葉監督
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 会うは別れの始まりなり。野球・ソフトボールと五輪の関係も今はそんなふうに、はかなく揺れている。20年東京五輪で3大会ぶりの五輪復帰が決まったが、これは開催都市提案による追加種目としてのもの。24年パリ五輪、28年ロサンゼルス五輪での実施は全く白紙である。少し気が早い気もするが、来年にはパリ五輪の追加種目候補が発表され、もはや待ったなしの状態。果たして野球・ソフトボールはこの先も生き残れるのか。(雨宮 圭吾)

◆除外で“失われた10年”

 8月のソフトボール世界選手権で日本は米国との激闘に敗れて惜しくも準優勝に終わった。チームの主軸はいまだに上野由岐子や山田恵里といった北京五輪組であり、宇津木麗華監督は「10年間のブランクによる人材不足」と五輪から外れた“失われた10年”を嘆いた。

 他国も程度の差はあれど同じような状況であったようだ。米国でも33歳のモニカ・アボットが代表復帰してエースの座に収まり、カナダでも代表復帰した31歳のダニエレ・ローリーが主戦を務めた。

 上野は「北京後は急激に戦力が落ちた国もあった。世界的に影響があったんじゃないか」と語り、米国代表のケネス・エリクセン監督は「以前のような人気はなくなり、国からの支援も削減された。20年での復帰が決まってまた財政的なサポートも増えた」と五輪除外の影響を語った。

 プロが確立している野球は少し状況が異なるとはいえ、グローバルな普及を考えれば現状では五輪以上のPRツールはない。WBCのような大会があっても、五輪での代表の活躍を見たいと願うファンも多くいるだろう。

 「パリは追加種目の候補リストを来年前半にはIOCに提出する予定なので、それに入らないといけない。我々には時間がない」。世界野球ソフトボール連盟(WBSC)のベンチュー・ロウ事務総長はそう言って危機感を強めている。フランスでスポーツと言えば何よりもサッカーであり、そしてラグビーや自転車レースなどである。野球・ソフトボールとは容易には結びつかない。

 そのためWBSCは24年がパリ、28年がロサンゼルスに決まる前から追加種目に入るべく両組織委員会への働きかけを行ってきたという。難関はやはりロサンゼルスよりもパリ。「とても難しい戦いなのは分かっている。野球もソフトボールもフランスではそれほど人気がない。このスポーツが受け入れられるように選手を強化し、施設を造らなければ」。まずもってパリには五輪を行えるような球場がない。WBSCはそのための用地、支援者を確保し、球場建設の準備も整えることで、本気の姿勢を示している。

◆ムッシュ吉田氏キーマン

 国際連盟だけでなく日本も存続のために尽力している。フランス協会と日仏ソフトボールパートナーシップ協定を締結し、同国代表の強化などで連携。6月の日米対抗時にはフランス代表も招へいし、日本の実業団チームが合同練習や強化試合を実施した。代表のレベルアップを後押しすることで関心を高めることが狙いである。

 野球でも日本とフランスのつながりは深く、一番の懸け橋は同国代表監督も務めた“ムッシュ”こと吉田義男氏ろう。フランスでは国際大会に“ヨシダ・チャレンジ”の名が冠されるなど、その功績は広く認められている。ただしフランス代表は16年欧州選手権で7位とまだ発展途上である。

◆選手数1万500人の壁

 そうした可能な限りの努力をした上でもなお他競技との厳しい競争がある。五輪の肥大化抑制に努めるIOCは選手数の上限を1万500人に定めている。今回の東京では追加種目の選手数をこれと別枠にしたが、パリではこの枠内に収めることが条件。団体競技は不利な立場に追い込まれる。

 東京五輪では野球・ソフトボール以外に空手、サーフィン、スケートボード、スポーツクライミングが選ばれたが、また横一線の争いとなる。前回落選したスカッシュや、フランス発祥の球技でパラリンピックのボッチャに似た「ブール(ペタンク)」などが加わってくるとの見方もある。追加種目入りが楽観視されるロス五輪でもeスポーツのような今までにないライバルが現れるかもしれない。

 追加種目は19年前半にパリ五輪の組織委員会がIOCに提案する。最終的には20年東京五輪も踏まえて同年12月の理事会で決定される。東京五輪での復活をひと夏の幻で終わらせないためにも、すでに戦いは正念場を迎えている。

 《野球・稲葉監督18年は「学びの年」》野球の侍ジャパンの稲葉監督は「競技者人口が減っていく中で、勝つことが大事。野球界にとって大きな大会になる」と東京五輪での金メダル獲得を自らに義務づけている。18年は「学びの年、土台づくりの年」と位置付けた。10月にコロンビアでのU23W杯で指揮を執る。国際大会独特の雰囲気や試合勘を養い、アマチュア球界を含め若手発掘にも目を光らせる。11月の日米野球は本番を見据えたベストメンバーに、将来性を買い若手も数人抜てきする方針。日本は開催国として出場権を獲得しているが、来年11月のプレミア12は五輪予選も兼ねる。「少しずつ五輪モードになるのでは。大会なので、当然勝ちにいく」と貴重な前哨戦とする考えだ。

 ≪ソフト・宇津木ジャパン新戦力発掘急ぐ≫新戦力の発掘、育成が宇津木ジャパンの差し迫った課題である。東京五輪の前哨戦となった8月の世界選手権では銀メダル。決勝の米国戦は延長タイブレークにもつれ込む紙一重の戦いを演じ、金メダル候補としての実力は示した。ただし決勝の先発メンバーの平均年齢は米国の24・7歳に対して日本は28・2歳。ベテラン勢が依然として世界トップレベルにあるのは間違いないが、若手の突き上げがないのは物足りない。アジア大会で5連覇を達成した代表は、11月のジャパンカップ(群馬県高崎市)から再始動する。宇津木監督が「いろんな選手を育てたい」と言うように世界選手権から5選手を入れ替え、2年後を見据えてチームの底上げを図っていく。

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