現役時代から一変 西武・辻監督“ミスを責めない指導”が生んだ10年ぶりV

[ 2018年10月2日 11:30 ]

<日・西>リーグ優勝を決め、胴上げされる辻発彦監督(撮影・尾崎有希)
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 もう10年以上前に聞いたことのある話をもう1度確認した。スポニチ評論家の東尾修氏に、である。西武ライオンズの黄金期を迎えた80年代のこと。キャンプ中の投内連携で若手投手が二塁送球がそれると、二塁ベースカバーに入った野手から怒声が飛んだ。声の主は辻発彦現西武監督。「本当に厳しかった。俺は辻監督より年上だったから何にも言われたことがなかったけど、若手投手はね。その厳しさにため息交じりの投手もいたのは本当だよ」とチームメートだった東尾氏は証言してくれた。

 辻監督は現役時代は送りバント1本失敗するだけで、自分の責任を感じていたという。1打席、1球にかける思いが周囲からは度が過ぎているように感じる時もあったという。だが、就任2年目で西武を優勝に導いた姿は別人に思えた。「ミスをしたって下を向かない今の選手はすごい。ミスを責めたってエラーは減るわけじゃない。それより、そのミスで1点を失っても、打撃で返してくれる」との言葉を聞くと、なおさらだった。

 現役時代にミスにうるさかった人がすぐに変われるわけがない。率直に「怖くないですか?」と辻監督に聞く機会があったが「怖くないよ。だって、勝つための手段がそれしかないのなら、選手を責めても仕方がないでしょ」と返ってきた。

 その話を東尾氏に振ると「現役時代に自分のできることは何か、そしてチームに何をすれば貢献できるかを考えてきた人間だからこそ、その選手の生きる道を提示できる。根本は一緒だよ」と返ってきた。そして「辻監督だって社会人時代はパワーヒッターで入ってきた。入団してから、いろいろと細かいものを覚えた。どうやれば、自分が生きられるかをね」と教えてくれた。一見、自らの野球観と違うように映ることも、個性を大切にするという点では一緒であるということだった。

 CS、日本シリーズは短期決戦。シーズンならミスに目につぶってきた1プレーが、致命傷になりかねない。そのミスで大事な一戦を落とすこともあるかもしれない。その時に辻監督はナインに怒鳴り散らすだろうか。そうは思わない。

 同じ指導をしても、時代の変化で受け取り手の印象は変わる。だが、根底にある信念を変えずに、時代の変化に応じて選手との接し方を工夫しているのが辻監督だ。各スポーツ界で指導者のあり方が問われているが、辻監督のマネジメントは、どんな企業のリーダーも参考にできる部分と感じる。 (記者コラム・倉橋 憲史)

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2018年10月2日のニュース