剛腕・西の第1球に見た快投の予感 被災地に届けた創志学園の快勝劇

[ 2018年8月9日 15:41 ]

第100回全国高校野球選手権記念大会第5日1回戦   創志学園7―0創成館 ( 2018年8月9日    甲子園 )

<創成館・創志学園>力投する創志学園・西(撮影・椎名 航)
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 あの「怪物」江川卓(当時作新学院)が敗れることになる銚子商戦、1回裏先頭の第1球に投げたのはカーブだった。1973(昭和48)年8月16日、第55回大会2回戦である。

 銚子商の斉藤一之監督はこの第1球を見て「今日の江川はおかしい」と不調を感じ取ったという。すでに3度江川と対戦して、いずれも完封で完敗を喫している。「いつも第1球は自信満々の速球だった」。江川は疲れていたのだ。できるだけ力をセーブしたいとの思いがあった。

 この日、新たに甲子園に現れた「怪物」、創志学園の右腕、西が第1球に投げたのはスライダーだった。

 150キロの剛腕について、試合前、長沢宏行監督は「注意点」として「スピードガンと勝負しないこと」と本人に伝えていた。「目の前の電光板に球速表示が出ますから、どうしても気になるでしょう。しかし、そこを気にせず、いかに緩い球をうまく使えるかがポイントでしょう」

 そんな懸念材料を消し去るかのよう、第1球に剛速球ではなく、緩い変化球を選んだのである。江川は疲労軽減という理由だったが、西の場合は力みを抑えるといったプラスの効果があった。

 もちろん、2年生の西本人だけでなく、3年生捕手・藤原のリードもあっただろう。この日の西はスライダーやカーブといった緩い変化球を効果的に使っていた。この配球が力みを消し去り、投球に幅を生んでいた。相手4番・杉原に97キロのスローボールを投げる余裕もあった。

 4〜6回の6者連続三振を含め、先発全員、毎回の16三振を奪ってみせた。

 藤原はリードだけでなく、守備面でも西を助けた。2回1死一塁で二盗を阻止。4回無死二塁ではワンバウンドを前に落とし、三塁を狙った走者を刺した(記録は三盗刺)。6回にも二盗の走者を刺した。結果的に3個の盗塁阻止を記録した。

 藤原は打っても4回2死二塁で左前適時打して0―0の均衡を破った。以後4連続長短打で大量4点を先取する突破口だった。

 先の西日本豪雨で岡山は大きな被害を受けた。創志学園の選手たちはボランティアで被災地の復旧作業を手伝った。

 甲子園出場と自然災害の巡り合わせを長沢監督は「私の運命かもしれない」と話していた。創志学園が甲子園に初出場したのは2001年3月、東日本大震災を受けての選抜だった。「がんばろう 日本」と当時の野山主将が選手宣誓した。

 「今回も岡山は大変な状況です。作業の合間に少しでも手を休めて、テレビでわれわれのプレーを見てくださっているかもしれない。はつらつと、元気良い姿を見せたいと思います」

 言葉通り、投打にはつらつとした快勝だった。

   (内田 雅也)

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