【徳島】生光学園のアンダースロー・梶谷 強打の鳴門を封じる 敗戦にも涙なし

[ 2018年7月26日 21:14 ]

第100回全国高校野球選手権記念徳島大会決勝   生光学園2―4鳴門 ( 2018年7月26日    オロナミンC )

生光学園の背番号10、梶谷武史は好救援をし、敗戦の中で存在感を見せた
Photo By スポニチ

 悲願の初出場を逃した生光学園に、右下手投げのひょろっとした好投手がいた。鳴門の猛攻を受け、1―4と逆転された3回。なおもピンチの2死二塁で、梶谷武史はマウンドに上がった。

 1球で打ち取って、次の回に試合を進めた。「これまで(先発の)斎藤の後を任されてきた。だから、斎藤の思いを込めて投げました」。8回に代打を送られるまで、4回3分の1を無安打無得点に抑えた。3試合連続2桁得点の伝統校を手玉に取った。自分の仕事を遂行するだけだと言わんばかりに、1メートル76、59キロの細身は淡々とアウトを重ねた。河野雅矢監督は「投手を早く替えれば」と悪夢の3回を振り返った。そう思わせる好投。背番号10。見事だった。

 武器の直球は、シンカー気味に落ちる。ただし、勢いを失って落ちるのではなく、勢いを付けながら落ちる。だから、急速は120キロ出るか出ないかでも、打者が詰まる。たまに浮き上がる直球も来る。上に伸びる直球と、下に伸びる直球。アンダースローだからできる2つのストレートで、凡打の山を築いた。

 昨年、2年生の6月に投げ方を変えた。

 「それまではオーバースローでした。最速は132キロ。同級生には、130キロを越える投手が何人もいました。ベンチにどうすれば入れるかを考えて、変則にしました。オーバースローの時は、ノーコンで、とても試合で使ってもらえる投手ではありませんでした」

 生き残りをかけ、自分で決断した。地面に手が付きそうな位置まで下げた。ここまで低いのは珍しい。ネット時代の野球少年のバイブル、ユーチューブでプロ選手の動画を研究した。右本格派の斎藤との継投で、この夏も勝ち上がってきた。

 「1年生の頃から、この代で甲子園に行くんだと言われてきました。鳴門に及ばず、残念です」

 徳島県は全国47都道府県で唯一、私学が春も夏も全国大会に出ていないという珍しい県。その歴史を変えようと、水色軍団は戦ってきたが、夢は後輩たちに託すことになった。

 冷静に見えたマウンド上と同様に、梶谷は試合後もひょうひょうとしていた。涙の痕跡は見えなかった。この先は?の問いに「大学で野球を続けたいです」と返した。

 プロから声がかかりそうな選手に注目は集まる。優勝投手も大事にされる。しかし、敗れた中にも無数にいい選手はいる。梶谷は、間違いなくいい投手。あの下に伸びる直球。埋もれてしまうには、あまりにもったいないボールだった。

続きを表示

2018年7月26日のニュース