野球女子と女子野球 競技の普及、発展のために必要なことは――

[ 2018年6月29日 11:30 ]

愛知ディオーネの里綾実投手
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 中日は女性ファンの拡大を目指し、24日のDeNA戦で「ドラ恋!ガールズデー」を開催した。

 ナゴヤドーム開催では今季2番目に多い3万6565人が来場。球団関係者によると、普段は約4割の女性客がこの日は6割を超えていたという。中日は14年から「ガールズデー」を開催しており、毎年チケットは完売。今年も女性限定で配られたピンク色のユニホームを着た野球女子たちが、スタンドを埋め尽くした。

 前日の23日には楽天も「イーグルスガールデー」を開催するなど、近年は各球団とも積極的に女性客に特化したイベントやサービスを行っている。

 このような背景には野球に興味を持つ女性や女性客の増加がある。だが、「野球」という競技に目を向けてみると、まだまだ普及は進んでいない。

 日本中学校体育連盟(中体連)によると、平成29年度の軟式野球部の女子選手は2686人。確かに10年前の平成19年度は855人、5年前の平成24年度は1886人と年々、増加はしている。ただ、他の競技と比べると、その少なさは一目瞭然だ。

 中体連のホームページでは、平成29年度のバレー部の女子選手は1万8808人、バスケットボール部は1万6530人、サッカー部の5816人でも軟式野球の倍以上いる。ボーイズリーグなど中学の部活でなく、硬式野球チームに所属している女子もいるため、単純比較はできないものの、野球をする女子がいかに少ないかが分かる。

 「ドラ恋!ガールズデー」では、試合前に女子プロ野球・愛知ディオーネに所属する里綾実投手(28)がスピードガンコンテストに挑戦。一般の女性たちが捕手に届かせるのもやっとな状況の中、119キロの速球を投げ込み、スタンドを沸かせた。里は14年の第6回、16年の第7回と女子野球W杯史上初めて2大会連続でMVPを受賞した日本が誇るエースである。

 そんな里も決して恵まれた野球環境ではなかった。鹿児島・奄美大島出身で幼少期から4歳上の兄やその友人らと野球やサッカーで遊ぶ活発な女の子だった。小学3年時に少年野球チームに所属。「男勝りな性格だったので、すぐに受け入れてもらえました」と女子1人でも問題は無かった。

 だが、中学校には女子野球部がなかった。周囲からも「中学ではどうするの?」と聞かれ、自ずと「違う競技を選ばなきゃ」という心理になり、バスケットボール部に入部。しかし、練習の合間に野球部の男子たちが汗を流し、白球を追う姿を見て「野球がやりたい」という思いが強くなった。

 3年生が引退し、新チームが結成された秋に軟式野球部に入部。当然、女子は一人だった。入部当初はキャッチボールを誰とするかなど、気を使われたという。さらに「小学校の頃は体も大きかったし、チームで1番上手いぐらいだったんですが、半年、野球から離れると自分の方が実力が上と思っていた子も力を付けて成長していて。挫折じゃないですけど…」と戸惑いもあった。

 それでも野球が楽しく、高校は神村学園、大学は尚美学園と強豪に進学。大学3年時には女子プロ野球が発足した。だが、当時はまだプロ選手が日本代表に入ることができなかったため「日本代表でやりたい思いが強かった」と卒業後は福知山成美高校の女子硬式野球部でコーチをしながら野球を続けていた。

 12年の第5回W杯から女子プロ野球選手も代表に参加できるようになり、「練習ができる環境があるなら、自分でどこまで挑戦できるか」と大会後、トライアウトを受け女子プロ野球選手となった。

 チーム数が限られているため、必然的に同じ相手と何度も対戦する。「選手の傾向とか特徴とか、データで野球をすることも多いので駆け引きが大事ですね」と楽しそうに話す。「女子プロ野球の存在を知らない人が多い。周りから先駆者と言われ珍しがられるが、『この前投げてたね』と当たり前になるように」と普及にも積極的だ。

 里は野球の魅力を「終わりがない」と語る。「勝っても優勝しても、また次に勝てるか分からない。やる度に面白さが変わる」と力説した。

 女子野球界の今後について「自分もそうだけど、野球部がないから違う部活を選ぶ子たちを多く見てきた。たくさんチームができて、小中学生の女子がどこに入ろうといろんな選択肢を持てるようになれば」と願いを込めた。

 今夏は米・フロリダ州で第8回W杯が開催される。もちろん里も代表入りしており、中心選手として6連覇の期待がかかる。スポーツの普及、発展にはトップレベルの活躍が必要不可欠。日本のエースが女子野球の明るい未来を信じ、世界の頂を狙う。(記者コラム・徳原 麗奈)

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2018年6月29日のニュース