松山商“理不尽”な練習で「ここ一番での勝負強さ」を

[ 2018年6月27日 07:00 ]

高校野球の今、そして次の100回へ(4)

監督の指示を直立不動で聞く松山商ナイン
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 「こんにちは」「ありがとうございました」――。松山商のグラウンドでは練習中もあいさつを含めた野球部員の声が何度も響く。1902年創部で春夏合わせ優勝7度、歴代5位の80勝。猛練習と過度なまでの礼儀作法の徹底を根底に高校野球界をけん引してきたが、2001年夏を最後に聖地から遠ざかる。

 09年夏の愛媛大会後に就任した重澤和史監督は今治西出身でOB以外で初めて指揮を執る。川之江を率い02年夏は甲子園4強入りした実績もあるが、就任以降は12、17年の春季県大会準優勝が最高。「負けてえらそうなことは言えないが…」と前置きした上で、苦戦の要因を分析した。

 「ここ一番での勝負強さで勝ってきたものが、逆に負けるようになった。ミスをしない野球をしてきたのが(近年は)できていない。(昔は)圧倒的な練習量を誇っていたが、時代の流れで“鍛える”ということも、そんなにできない」

 指揮官自身も松山商の伝統との戦いだった。現役時代に松山商のグラウンドに足を踏み入れたことはなく、練習試合をすることもなかったという。外から見ているだけで、すべてはベールに包まれていた。そんな中で、夏になれば必ず仕上げてくる――。その強さに興味、関心があった一方で、監督就任が母校への裏切り行為になるではという葛藤もあった。最後は現役時代の恩師に「松山商業には高校野球の神髄がある。それを勉強して来い」と背中を押された。

 夏は5度の全国制覇で通算60勝。「夏将軍」の異名を取った背景には「冬の練習を大事にする」ことがあるという。基礎の反復練習に体作り。就任後、初めての冬に主力がケガをするとOBが「この大事な時期になにやっているんだ。今やっておかないと夏、どうにもならん」との怒声が飛んだという。

 重澤監督自身も川之江時代から続く、年末3日間の“冬合宿”を敢行する。「体がぼろぼろになる。理論的にかなっていない、理不尽な練習をする。ただ、心だけを強くしにいく。すべては土壇場で力を発揮できる能力を身につけるため。やればできる、を植え付けていく」。部員は必ず涙を流すが、やり遂げたことでチームの結束力も高まる。

 今夏は第100回の記念大会。節目の大会を迎える今の3年生には、入学時に「すごい運命の持ち主やぞ。松山商で100回大会を迎えられる、挑戦させてもらえるのは光栄なこと。使命感を持ってやろう」と伝えた。その後も「どこがいくんだ、松山商業だろ。全国でいろんな人が出場を待望し期待している。粋に感じてやるしかないだろう」と鼓舞し続けてきた。

 加えて、今年1月に史上初の大学選手権9連覇を達成した帝京ラグビー部を参考に、3年生が率先して雑用を行うなど、新たなチーム改革にも取り組んだ。主将を務め53人の部員を束ねる桧垣翔はOBである父と同じ二塁手。「地域のみならず全国の人が松商に期待してくれているのを感じる。重圧はあるが、松商は勝たないといけない」と使命感を口にする。

 用具室の扉の横には

平成三十年松商野球部 第百回記念大会出場

一、使命感

一、伝統継承

一、率先垂範

一、気力

と書かれている。

 「守りこそ最大の攻撃なり」と言われるように、松山商の野球は守り勝つ――のが身上だ。ただ、時代の流れもあり、年々のチーム状況に応じ、勝つための最善のスタイルをとる。今年は昨秋は地区大会代表決定戦で済美に惜敗。今春は県大会1回戦で連合チームに3―6で敗れた。それでも、例年よりも中軸に長打力が期待できるといい、得点力を高めることにも力を注いできた。

 「選手が凄いプレッシャーを感じている。勝てないこともあり、本当に高校野球かというくらいの罵声を頂くこともある。相当な重圧の中でやっている」と、名門ゆえの苦悩も明かすが、期待されているがゆえであることも分かっている。

 だからこそ、復活に向け、重澤監督は“人間をつくる”という伝統の継承を大前提に魅力あるチーム作りが必要とし「勝つこと」で生まれると話す。「勝つより負けて卒業する選手の方がはるかに多い。泥まみれで、はいつくばってやってくれたから今がある。努力を「勝つ」ということで結び付けてあげたい。やってきたことが間違いなかったことを(今夏に)優勝することで証明してやりたい」。100年を超える歴史で培われた「無形の力」はどこもマネができないもので、最大の武器でもある。節目の大会で、見えない力が復活を後押しするはずだ。

 ◇松山商 夏の通算60勝は中京大中京に次ぐ2位。69年は三沢との決勝引き分け再試合を制してV。96年決勝での右翼手・矢野勝嗣の「奇跡のバックホーム」も名高い。

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