野球に正解はなく、あるのは最良の結果だけ

[ 2018年4月7日 10:00 ]

初回のピンチを切り抜けたロッテ涌井(右)
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 【君島圭介のスポーツと人間】野球の試合を見ているとハッとするプレーがある。パ・リーグの開幕戦、ロッテ―楽天戦(ZOZOマリン)でいきなり驚かされた。

 0―0の1回無死一、三塁で楽天の先制チャンスだった。結果を言えば、投ゴロから三本間の挟殺プレーでロッテが1アウトを奪い、1死一、二塁へと場面が移った。

 このプレー。楽天は「ゴロゴー」。つまり打球が転がったら、三走の茂木は本塁へ突っ込む約束だ。打者の島内はバスターで転がしたが、打球は投手の正面を突いた。

 この瞬間、涌井には二つの選択肢があった。二塁に送球して併殺を狙うか、飛び出した茂木の生還を防ぐか。言い換えれば1点を失って2死走者なしとするか、1点も与えず1死一、三塁のピンチを続けるか。

 ここで涌井の選択にハッとした。間髪入れずに三塁手の鈴木に送球したからだ。併殺を狙わずに挟殺プレーを選んだ。だが、三本間に走者を挟むなら自らボールを持って追うか、捕手に送球するのがセオリーだ。

 証言(1) ロッテ・的場戦略兼バッテリーコーチ「ゲッツーは無理と判断したのでしょう。いいプレーだし、大きかった」

 証言(2) ロッテ・田村「(三塁送球は)走者の位置を見た涌井さんのとっさの判断」

 三塁手が最初にボールを持ったことで走者は本塁へ向かわないといけない。ボールは次に捕手に渡り、捕手が三塁側へと走者を追い込む形となった。これが奏功した。

 証言(3) ロッテ・鈴木「捕手から追われる方が走者は嫌ですからね」

 楽天からの視点ではどうだったのか。

 証言(4) 楽天・清水外野守備走塁コーチ「三塁方向に向かってきた田村がボールを持っていたからペゲーロは二塁から動けなかった」

 1死一、二塁で再開すると、ウィーラーが一ゴロ併殺で楽天の初回攻撃は「0」で終わった。開幕直後の最初の失点危機をロッテ守備陣はこうやって乗り切った。

 そのプレーを掘り下げ、涌井の好判断なのか、鈴木と田村による挟殺の妙技なのか、その「答え」を探った。

 そして行き当たったのが「野球に正解はなく、あるのは最良の結果だけ」という結論だった。

 鳥越ヘッド兼内野守備走塁コーチは言った。

 「正解なんてない。あの回は無失点だったけど、俺は(二塁送球で)ゲッツーを取れたと思っている」

 野球に同じシチュエーションなどない。走者の足の速さや飛び出した位置、捕球した場所や捕球体勢でも選択肢は増えたり、逆に減ることもある。

 清水コーチが振り返る。「茂木はもっと出来ることがあったけど、(鈴木)大地の球離れも早く、田村の追い込みも速かった」。

 鳥越コーチは続けた。「選手に言うのは、とにかくアウトカウントを増やすこと、それから走者をホームに還さないこと」。正解がないから選手は瞬時に判断し、選択したプレーの精度を高める。そのためには練習しかない。(専門委員)

 ◆君島 圭介(きみしま・けいすけ)1968年6月29日、福島県生まれ。東京五輪男子マラソン銅メダリストの円谷幸吉は高校の大先輩。学生時代からスポーツ紙で原稿運びのアルバイトを始め、スポーツ報道との関わりは四半世紀を超える。現在はプロ野球遊軍記者。サッカー、ボクシング、マリンスポーツなど広い取材経験が宝。

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2018年4月7日のニュース