花巻東8強躍進支えた、背番11右腕・伊藤 骨折乗り越え兄に恩返し

[ 2018年4月2日 11:45 ]

<花巻東・彦根東>初回途中から登板し、延長10回まで無失点で投げきった花巻東・伊藤
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 大阪桐蔭の猛打の前に敗れたが、花巻東(岩手)の9年ぶりのセンバツベスト8の歩みは色あせることはない。3月31日に行われた3回戦の花巻東対彦根東(滋賀)。念願のマウンドで躍動するある投手の姿に感動を覚えた。初回無死一塁から2番手で登板した伊藤翼投手(3年)だ。初めての夢舞台で10回を零封した。

 突然の登板にも冷静だった。初回に先発の新田が先頭打者に頭部への死球を与えるなどの乱調で緊急救援した。延長10回まで6安打無失点投球で、チームのサヨナラ勝利を呼び込んだ。127球の熱投だった。

 試練を乗り越えてつかんだ夢舞台だ。昨秋は三塁手と投手の二刀流。三塁手としての出場が多かったが、2月6日に体育館でトレーニングをしている最中に左足首をひねった。骨折だった。すぐに入院。チームメートからの「おまえのためにも頑張る。早く戻ってこい」の声に勇気をもらった。

 下半身が使えない間は体幹トレーニングと上半身のトレーニングに励んだ。「もともと体が強くなかった」と振り返るが、ケガが完治したときには以前よりも体の軸にブレがなくなったという。さらに「以前より、コントロールよく投げられるようになった」。この日の四死球はわずか「1」。ケガをしている期間も無駄にせず、成長への糧とした。

 兄への恩返しのマウンドでもあった。野球を始めるきっかけは、「仲がいい」という3つ上の兄・駿さんだった。小1のとき、兄の姿に憧れて白球を握った。花巻東に入学するきっかけを作ってくれたのも、兄だ。15年夏。甲子園のアルプスで兄のチームを応援。「花巻東に入りたい」と思った。甲子園が決まったとき、「がんばってこいよ」と連絡をもらった。ベンチ入りできなかった兄の分も、甲子園のグラウンドで全力でプレーをすると決めていた。

 初戦の試合後。伊藤に話を聞いたことを思い出した。登板機会がなかったことを尋ねると「チームが勝てたので、それが1番です」と答えが返ってきた。そして、こう続けた。「次の勝ちに貢献できるように、しっかり準備をしていきます」。言葉通りの投球。甲子園のマウンドで背番号11は鮮烈な印象を残した。(記者コラム・中村 文香)

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2018年4月2日のニュース