大谷を追った張り込み12日間…徹底していた情報管理

[ 2017年12月29日 11:45 ]

エンゼルス入団会見でユニホーム姿を披露する大谷
Photo By スポニチ

 張り込み。新聞記者なら誰しも経験があるだろう。夜討ち朝駆けという言葉もある。先輩から「“足”を使って情報を取れ」とは、よく言われることだ。取材対象の予定など情報を全くつかめない場合も多々あり、はっきりいって気の遠くなるような仕事だが、欠かすことのできない重要な仕事でもある。

 今回もそうだった。ポスティングシステムを利用し日本ハムからメジャー移籍を目指した大谷が11月29日夜に緊急渡米。記者は大谷の後を追いかけ、米ロサンゼルスまで飛んだ。それからというもの、待っていたのは怒濤(どとう)の張り込みの日々だった。メディカルチェックのため訪れるであろう病院、ミーティングが行われるであろう代理人事務所「CAA」にとどまらず、近隣の野球場にも足を運んだ。施設見学に訪れないかと一般客に無料開放していたドジャースタジアムのスタンドで一日中、目を光らせたこともあった。

 エンゼルス入団合意が発表されたのは12月8日午前(日本時間9日)。スポニチを含む各メディアが、大谷の姿をようやく捉えることができたのはこの日の午後、CAA前だった。帰国後、大谷は米国での練習について「ジムでやったり、公園でやったり、キャッチボールや走ったり」と話した。現地到着から帰国日まで12日間もあった。現地で取材していた日本人記者、カメラマンは最低でも総勢30名は超えていただろうが、この日まで誰ひとり大谷を捉えることができなかった。CAAを含む大谷サイドの徹底した情報管理は凄まじかったと言わざるを得ない。

 会見後の囲み取材では大谷が7日夜にエンゼルスタジアムに施設見学に訪れていたことも明かされた。驚いた。その前日の6日、私はエンゼルスタジアム周辺で張り込んでいた。ニアミスだった。大谷を発見できたからといって、取材ができるとは限らない。ただ、姿を捉えるだけで「ニュース」な状況であっただけに、何とも言えない虚無感に襲われたのは言うまでもなかった。

 しかし、会見はそんな記者個人のモヤモヤを吹き飛ばすほど素晴らしかった。エンゼルスカラーの赤色のネクタイを締めた大谷が、自分だけのために敷かれたレッドカーペットを歩き、球場入り。大音量の音楽とともに会見がスタートし、壇上に上がると集まった1000人を超えるファンから地鳴りのような大歓声が沸き起こった。司会者によるビリー・エプラーGM、マイク・ソーシア監督らの紹介と観客の反応はいちいちかっこ良い。これまでにお世話になった家族、指導者、関係者全てに感謝を伝える大谷のスピーチ内容は言うまでもなく感動的だった。

 なぜ、エンゼルスを選んだのか。大谷は「縁みたいなものを感じた」「感覚的なもの」と言い、具体的な理由は語ろうとしなかった。25日の惜別会見でも「縁というのは具体的な表現じゃないので、それ自体ふわふわしている。最後に背中を押してくれるのは、理屈ではなく直感で来るものなんじゃないかなと思っている」と話していた。現役最強打者のトラウトに口説かれたからという説もあるが、ドジャースも現役最強投手のカーショーがラブコールを送ったという。諸説飛び交うが、ロサンゼルスで過ごした「空白の12日間」とともに、その真相は本人及び関係者にしか分からない。

 とにもかくにも2018年、「二刀流・大谷翔平 メジャーリーグ編」がいよいよスタートする。記者も担当5年目を迎える。大谷が選んだチーム、進んだ道がベストだと願い、信じている。(記者コラム・柳原 直之)

続きを表示

2017年12月29日のニュース