ハム中島が救われたあの一言…ファンに、仲間に愛された今浪氏の野球人生

[ 2017年12月27日 10:30 ]

「一日店長」を終えた今浪氏(左)と、飛び入り参加した日本ハム・中島
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 12月16日、東京都渋谷区千駄ケ谷にある小さなお店が軽い混乱状態に陥っていた。久保田スラッガー東京支店で、今季限りで現役を引退した今浪隆博氏が一日店長を務めた。正午から午後4時までの予定だったが、ファンが殺到したため午前11時からスタートし、午後5時まで拡大。それでも店の前にできた大行列は最後まで途切れなかった。

 06年大学・社会人ドラフト7巡目で日本ハムに入団。勝負強い打撃を備えた内野のユーティリティープレーヤーぶり、またお立ち台でのシュールなトークが光った。14年開幕直後にヤクルトにトレード移籍。「やっぱ俺って華の都も似合うよね」の言葉どおり、すぐにチームに馴染んで欠かせない存在となっていた。昨季中に「甲状腺機能低下症」を発症。最後は思うようなパフォーマンスができずにユニホームを脱いだが、温かい声援を常に感じていたという。だからこそ「ファンに今までの感謝の思いを伝えられる機会がないかな」と用具を使用していたスラッガー担当者に相談。約1カ月後、「一日店長」が実現した。

 当日は全国各地からファンが集結。来店した約400人の思いを受け取り、しっかりと一人一人の目を見て「ありがとうございます」と告げる姿が印象的だった。日本ハム担当、さらにヤクルト担当として取材させてもらったが、本当にファンに愛された選手だったように思う。「人が途切れずビックリした。本当にありがたい、それしかない」と今浪氏の感謝の思いは尽きなかった。

 この日、遠く北海道から駆けつけた一人が日本ハム・中島卓也だ。「暇しているだろうから相手しようと思ったんですよ」と飛び入り参加したものの、少しの暇もないほどの大忙し。急きょ「アルバイト」としてサポートした。日本ハムで一、二の人気を誇る男が「ナミさん、凄い人気っす」と目を丸くするほどの盛況ぶりだった。

 「ヤクルトの後輩は1人も来ないんですね」と茶化していた中島だが、忘れられない思い出がある。まだレギュラーに定着していなかった13年のこと。自身の失策で9回に同点に追いつかれた。試合はサヨナラ勝ちを収めたが、ロッカールームで悔しさのあまり涙を流していた。すると引き揚げていた今浪が中島を見つけて大声で「卓が泣いてまーす」と言ったのだ。重かった空気は一転。中島は当時を振り返り「笑いに変えてくれた浪さんの愛情を感じた」と感謝の思いを口にする。今浪も「あれがあったから、一流プレーヤーになれたんやな」とニンマリだった。

 チームでレギュラーを張る主役級ではなかったが「自分の役割がある」と脇役に徹し続けた11年間。野球のニュースに目を通さなくなったことで、現役を終えたことを実感するのだという。練習をする必要がなくなり体を動かさなくなった分、普段の生活で自動車を極力避けて自転車や徒歩を増やすなど「逆に体に気を遣っているかも」と笑う。今は「好きな釣りとゴルフのローテーション」という穏やかな日々を過ごしながら、次の目標に向けて動き出している。ファンに、チームメートに愛された今浪氏の野球人生には、まだ続きがある。(記者コラム・町田 利衣)

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