“休養宣言”井川慶 人生のお手本はクレメンス「辞めない、というのもあり」

[ 2017年12月4日 13:02 ]

野球教室で子どもたちに囲まれて笑顔を見せる兵庫ブルーサンダーズの井川慶投手
Photo By スポニチ

 3日夜、兵庫県三田市内にあるアメニスキッピースタジアムは、子どもたちの笑顔であふれていた。体感温度は氷点下に近い。だが、寒さを吹き飛ばすほどの熱気が伝わってくる。その中心に井川慶がいた。

 「教えるのって、本当に難しいですね。子どもの目線に合わせないといけないし、どこまで理解できるかな、と言葉も選びますし。とにかく、何でも声を掛けるようにはしました。思い出になるでしょうから」

 日曜日の午後6時半とはいえ、約110人の小学生が集まった。井川が大々的に野球教室で講師を務めるのは初めて、という。やはり、今でも人気者だ。気になったのは、教えるという初めての感覚。もしかして、指導者としての面白みを感じ、自分の人生の選択肢に加えないだろうか…。

 「ないですね」

 あっさりと否定されてしまった。

 言わずと知れた元阪神のエースだ。今季は関西独立リーグのベースボール・ファースト・リーグ、兵庫ブルーサンダーズで11勝を挙げるなどリーグ優勝に貢献した。そして先日、兵庫の今季限りでの退団を発表。そのうえで「自分としてはこのまま引退という事は考えておらず、現役は続行するつもりで一旦休養に入りたいと思います」との談話を加えた。

 休養とは、どういう意味か。本人に聞くと、「ここで1シーズンやったので、上からのオファーがあれば準備をするつもりで、今もトレーニングは続けています。ただ、このリーグは、基本的に若い子が上を目指すリーグで、自分が長くいてもしょうがないですから」と、退団=引退ではないという。

 もちろん現状が厳しいことは理解しているが「辞めるのは簡単ですから。辞めない、というのもありかな」と、ひとまずは現役続行を目指し、兵庫の選手にまじって練習を続けている。簡単には辞めない、というのも井川らしいが、話を聞いていると、何となく心の奥底にクレメンスの衝撃があるように思えた。

 ロジャー・クレメンスは、サイ・ヤング賞を7度も受賞し、メジャー通算354勝を挙げた大投手。晩年は毎年のように引退を示唆しながら、現役を続けたが、井川の胸にあるのは、メジャー挑戦した1年目の07年のことだ。その年も、所属先がないままシーズンインを迎えたが、5月のある試合中のイニングの合間に、クレメンスは自らマイクを取り、スタジアム内で復帰すると宣言。ファンの大歓声に包まれたことがあった。

 「ぼくもちょうど見ていたんですよ。クレメンスの声がスタジアムで流れて、“ウオー”ってなってね。すごかったですよ。格好いいなと思ってね」

 クレメンスの話は、過去に何度か聞いたことがあった。調整登板のために、マイナーリーグの1Aや2Aで投げるだけでも、練習前から汗びっしょりだったとか。「練習前から自主的に動いて、もう登板が終わったような汗でした。あのクラスの投手がそこまでするのか、とビックリしました」といい、感銘を受けたという。井川の人生のお手本に、クレメンスは外せないのかもしれない。

 野球教室も無事に終了したが、スタジアムが閉まる直前までファンが井川を囲んでいた。子どもにまじって、最後は父兄もサインをねだった。球場を出る10時近くになっても、見送りをする女性ファンがいた。

 「いつも来てくれる女性の方なんですよ。本当にありがたいですよね。タイガースにいたときは応援してもらっていましたけど、今は一線級で投げているわけではないし。今でも僕を応援してくれる人がいるのは、本当に感謝しないといけないです」

 野球選手だから、自分のために投げる。しかし、最後に背中を押してくれるのは、周りの人たちの力かもしれない。

 ちなみにクレメンスは50歳になった12年に、米独立リーグで復帰している。まさかな…、と思ったが、井川なら分からないか、とも思った。(鶴崎 唯史)

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