野球という仕事 則本昂大が記憶に刻む特別な三振

[ 2017年11月23日 10:30 ]

4月4日のソフトバンク戦の初回2死二塁、内川を空振り三振に仕留めた則本
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 【君島圭介のスポーツと人間】シーズン中のkoboパーク宮城。試合のない休養日も一部の投手陣は調整のためにグラウンドに現れる。

 「やばいよ」。楽天・則本昂大のキャッチボール相手をしていた美馬が顔をしかめていた。グラブを外した左手がしびれているという。

 「ノリ(則本)の球はキャッチボールでもえげつない。あいつ、自分では自分の球を捕ったことないから分からないんだろうけどさ、相手するの大変なんだよね」

 美馬が苦笑いを浮かべた。則本は涼しい顔で次の練習へと移っている。

 koboパーク宮城は14年から投球の初速、回転数などを計測する高性能弾道測定器「トラックマン」を導入した。則本の直球は1分間に換算すると多い時で2500回転前後と測定されている。大リーグ投手でさえ平均回転数が2200回転とされる。回転数が多ければ初速と終速の差が小さく、打者からはホップして見える。それが則本が三振を量産する最大の根拠だ。

 今季は自己最多の222奪三振を記録。シーズン200奪三振超えは4年連続だ。6月8日のDeNA戦(koboパーク宮城)では8試合連続二桁奪三振の日本記録も達成した。世界的にも99年のP・マルティネス(レッドソックス)らの大リーグ最長記録に並ぶ快挙だった。

 その一戦で10個目の三振を奪った相手は筒香だった。8回1死二塁、1ボール2ストライクと追い込むと、内角低めに149キロの直球を配し、見逃し三振に斬った。試合後は「筒香から取りたかった。日本の4番を背負った素晴らしい打者ですから」と振り返っている。

 「三振は欲しい時に取れるようになりたい」と則本はいう。「それが勝ちにつながるように」。打たせてアウトを重ねる投球術もある。則本の場合は三振が生命線なのだろう。そういうタイプの投手なのだ。

 今季25試合で、のべ750人の一流打者と対峙し、積み重ねた222個の三振。一番記憶に残るのはどれか。

 「あえていうなら1個目の三振です。内川さんから奪ったと思うんですけど。1つ目の三振が今に繋がっている」

 4月4日のソフトバンク戦(koboパーク宮城)の初回、内川を仕留めた三振から始まった。

 11月20日、日本野球機構(NPB)の1年を締めくくる「NPBアワーズ」の華やかな表彰式会場にスーツ姿の則本はいた。4年連続でパ・リーグの最多三振奪取投手として。「三振数もうれしいですけど、この場所にいられることが幸せです」。そのスーツを脱いだ時、来季1つめの三振を奪うための努力が始まる。(専門委員)

 ◆君島 圭介(きみしま・けいすけ)1968年6月29日、福島県生まれ。東京五輪男子マラソン銅メダリストの円谷幸吉は高校の大先輩。学生時代からスポーツ紙で原稿運びのアルバイトを始め、スポーツ報道との関わりは四半世紀を超える。現在はプロ野球遊軍記者。サッカー、ボクシング、マリンスポーツなど広い取材経験が宝。

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