西武 強力打線で奇跡の大逆転狙う

[ 2017年8月21日 12:05 ]

勝負強い打撃で貢献する西武・山川
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 【宮入徹の記録の風景】すでに徳俵に足がかかった状態といえるだろう。西武逆襲の話だ。パ・リーグの優勝争いは現在ソフトバンクが首位。2位楽天、3位西武との差を広げつつある。ただ、球宴後の3チームの勝率をみるとソフトバンク・750、西武・700、楽天464。西武はソフトバンクには及ばないものの7割台と健闘している。後半戦のチーム打率は西武・272、ソフトバンク・240、楽天・234。打線だけなら西武は3チームの中で頭一つ抜けている。

 個人では球宴後に秋山が打率・370。次いで山川・337、金子侑・320、浅村・304、外崎・302と3割以上がずらり。特に山川はこの間の得点圏打率が・417と勝負強さが際立っている。

 西武は球宴直後の7月19日に首位の楽天と11ゲームの大差。それが21日の日本ハム戦から58年以来チーム59年ぶりとなる13連勝の快進撃を見せた。過去、シーズン途中に首位と10ゲーム差以上離されながら逆転で優勝をさらったケースは7度しかない。そのうち西武は西鉄時代に58年11ゲーム差、63年14・5ゲーム差と2度、98年の10ゲーム差を合わせ半数近い3度を記録。大逆転はチームのお家芸になっている。

 筆者がプロ野球記録の仕事を始めた80年代前半は2桁ゲーム差の逆転優勝は前出の西鉄の2度だけ。それこそこうした逆転劇は奇跡ともいえるもので、半ば伝説化していた。実際、3例目となった96年巨人(11・5ゲーム差を逆転)までは30年以上もの歳月を要した。さかのぼってプロ野球で初めて2桁ゲーム差を逆転した58年西鉄の記録をひもとくと、これまで気づかなかった発見があった。

 この年は中西太、豊田泰光、関口清治、高倉照幸ら中軸野手の活躍はもちろんだが、やはり鉄腕投手・稲尾和久の超人的ともいえる働きぶりを抜きに語れない。球宴直前の7月24日時点で西鉄は首位の南海と11ゲーム差の3位。後半戦は8月2日の近鉄戦(平和台)で再開した。その試合に先発した稲尾は7回1失点と好投。3回には自ら先制の決勝三塁打を放ち、9―1で大勝した。そこから閉幕まで稲尾は実に31試合に登板。168回1/3を投げ、17勝1敗、防御率0・80と驚異的な数字を残した。

 投げるだけではない。この間の打撃成績は69打数20安打、打率・290、3本塁打、10打点、2V打。普通なら投手としてのスタミナを温存するために打撃で手を抜くことも可能だが、稲尾は別。投打フル回転の活躍ぶりだった。

 同年は日本シリーズで巨人と3年連続で対戦。3連敗のあと4連勝と巻き返し西鉄は3連覇を果たした。このシリーズで稲尾は第4戦から第7戦まで4連勝をマークし、第5戦では延長10回に稲尾自らサヨナラ本塁打を放っている。レギュラーシーズン、ポストシーズンとも投打で存在感を発揮。球史に残る空前絶後の活躍は「神様、仏様、稲尾様」と呼ばれるにふさわしいものだった。

 過去、10ゲーム差以上の逆転優勝を果たしたチームの指揮官で新人監督はいない。就任1年目の辻監督がチームの伝統を受け継ぐ大逆転を実現できるのか。正念場の采配に注目したい。 (専門委員)

 ◆宮入 徹(みやいり・とおる)1958年、東京都生まれ。同志社大卒。スポニチ入社以来、プロ野球記録担当一筋。94年から15年まで記録課長。本社制定の最優秀バッテリー賞の選考委員会には、1回目の91年から26回連続で資料説明役として出席。

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