野球の音を聴け 松井稼頭央の気持ちが上がるとき

[ 2017年7月7日 10:40 ]

6月26日のオリックス戦の延長11回1死一塁、遊ゴロを処理し、併殺を完成させる松井稼頭央
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 【君島圭介のスポーツと人間】 はやりの表現を使うなら「レジェンド」。確かに経歴や残してきた数字はレジェンド級だが、楽天・松井稼頭央にベテラン特有の重い貫禄感はない。

 Koboパーク宮城には誰よりも早くグラウンドに出て、バットを振る松井稼の姿がある。成長途上の若手に課される試合前の早出特打。今年42歳になる今でも若手より多く振る。しかもスイッチヒッターだ。左右両打席で振り続ける。

 松井稼は守備練習で打球をキャッチしたときのグラブの音が好きだという。

 「芯で捕るとパチンという音が鳴る。バットの音よりグラブの音が好き」

 三拍子が揃う――。この言葉が最も似合う野球選手ではないだろうか。若手の育ってきたチーム状況もあって外野手に転向した今、試合終盤からの出場も多い。驚くのは終盤に代走で起用されることだ。それは今でも「足」が最高の武器のひとつであることの証明だ。

 代名詞である「背番号7」がグラウンドに出れば球場は盛り上がる。

 「試合中には音は聞こえない。米国では投げる前や打つ前は『しーん』となる。確かに音は聞こえるけど、僕には違和感があった。慣れたというか、途中から気にはならなくなったけど……」

 7年間在籍した大リーグから戻って来て、うれしかったことがある。日本の球場特有の歓声や応援の中でプレーできることだ。

 「僕は日本のスタイルが好き。帰ってきて、あの歓声が凄く気持ちいいなあと感じた。気持ちが盛り上がる」

 高校野球から慣れ親しんだ雰囲気に包まれ、わき上がる高揚感に背中を押された。

 6月13日の交流戦・ヤクルト戦(神宮)では「6番・左翼」で出場し、3安打1四球で5打点1得点と活躍。敵地、しかも所属したことのないセ・リーグ球場の大歓声を集め、「こういうご褒美がないと頑張れない。準備したことに結果がついてきてうれしい」と笑顔を浮かべた。

 同26日のオリックス戦(Koboパーク宮城)、延長10回からは3年ぶりに遊撃の守備にも就いた。球場は地響きのような歓喜に包まれた。バットの音も大好きなグラブの芯を叩くボールの音もかき消す、その声援のために松井稼は誰よりも早く球場に入り、汗を流し、バットを降り続けているのかもしれない。

 ロッテの井口資仁が今季限りの引退を表明した。来季からは現役野手最年長の一人となるが、それでもやはりベテランの貫禄感はない。松井稼が伝えるのは、エンターテインメントはこうあるべきという躍動感だ。 (専門委員)

 ◆君島 圭介(きみしま・けいすけ)1968年6月29日、福島県生まれ。東京五輪男子マラソン銅メダリストの円谷幸吉は高校の大先輩。学生時代からスポーツ紙で原稿運びのアルバイトを始め、スポーツ報道との関わりは四半世紀を超える。現在はプロ野球遊軍記者。サッカー、ボクシング、マリンスポーツなど広い取材経験が宝。

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