「阪急阪神」とタイガース(下)

[ 2017年7月3日 11:00 ]

 【内田雅也の広角追球】6月13日、大阪市北区の梅田芸術劇場で開かれた阪急阪神ホールディングス(HD)の定時株主総会に出向いた。

 総会終盤、元気よく声をあげ、手をあげていた男性株主が議長の角和夫会長から指名を受け、質問に立った。

 「かつての阪急ブレーブス黄金時代を知る角会長に、今の阪神タイガースをどう思うかを聞きたい」。毎年恒例だが、今年は初めてのタイガース関連の質問だった。

 「タイガースに関して阪神と阪急の人事交流がない。角会長はタイガースの経営にタッチしないと話してきたが、今もその考えに変わりはないのか。もっと交流をしていただき、阪急・阪神が一体となって強いタイガースにしてもらいたい」

 この株主は昨年も質問の機会を得て「既成概念を打ち破る必要がある。球団役員に阪神以外の外部から人材を登用してはどうか」と迫っていた。

 角会長は阪神タイガースは宝塚歌劇とともに阪急阪神HDのエンターテインメント・コミュニケーション事業部門だと説明した上で、人事交流について答えた。

 「たとえば、鉄道の課長がタイガースへいってマネジメントできるか、と言うと難しい。現場が混乱したり、戸惑ったりする。若いうちから、人事交流をしておかないとだめかなと思います」

 さらに新たな取り組みとして、来春入社の総合職の採用を阪急阪神HDで一括して行う方針を明かした。「HDからそれぞれの部署にいき、仕事をしてもらう体制になります。これをきっかけに(阪神、阪急の)人事交流を進めていきたい。タイガースについても、違った目で見ることも、ある意味いいかもしれません。慎重に(坂井信也)オーナーと相談させてもらいながらですね」

 「違った目」とは阪急の視点を指しているのだろう。これまで球団について多くを語らなかった角会長としては踏み込んだ発言だと言える。すでに昨年から阪急電鉄と阪神電鉄の間で役員の交流が行われている。

 阪急阪神HDとしての統括は新入社員に限らない。関係者によれば、今の阪急、阪神両社の幹部社員も阪急阪神HDに転籍したうえで、あらためて傘下に配属となる方向で話が進む。今は阪神だけの球団役職員にも阪急出身者が配属になることもあるだろう。グループ強化のため、適材適所の人材交流を進め、総合力を発揮できるように努めるのは、ある意味当然である。

 阪神のある幹部は「人事交流が進んでいけば、もう阪神だ、阪急だといったこともなくなってくる」と、どこか寂しげに話した。「阪急にだけは負けるな」といった歴史的背景、遺伝子がある。経営統合の際、20年も阪神球団オーナーを務めた久万俊二郎・本社相談役(元会長=故人)が「ご先祖様に申し訳が立たん」と漏らしたのを思い出した。

 そして球団は、タイガースは「阪神」のシンボルだった。1935(昭和10)12月の球団設立から80年以上、阪神が運営してきたタイガースである。

 もちろん、昨年の株主総会で角会長は「タイガースは未来永劫(えいごう)、阪神タイガース」と明言している。確かに球団名称は変わることはないだろう。球団を運営するのも阪神電鉄で変わることはない。表立って劇的な変化があるわけではない。ただ、人事交流は進む。前回書いたように、合併・統合で人間同士の心が通い合うには30年かかるそうだ。タイガースは緩やかに変わっていく。

 この変化は、質問した株主の言うように、より強く、より愛されるタイガースのためでなくてはならない。伝統ある老舗球団の新時代を見つめていきたい。 (編集委員)

 ◆内田 雅也(うちた・まさや) 阪神電鉄株主総会を初めて取材したのが1989年。経営統合となった阪急阪神ホールディングス株主総会の取材は皆勤。1963年2月、和歌山市生まれ。主に阪神を追う大阪紙面のコラム『内田雅也の追球』は11年目。

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2017年7月2日のニュース