西武・愛斗 辛さ、怒りをバネに叶えた夢 家族を支えにさらなる飛躍を

[ 2017年6月30日 11:00 ]

西武の愛斗
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 試合前のフリー打撃。他球団の首脳陣と話していた時だった。「スケールが大きいよなあ。あの選手は面白い。確実性を磨いたら、浅村みたいになるぞ」。視線の先には西武の高卒2年目・愛斗がいた。

 新人の昨季はイースタンで74試合に出場して打率201、5本塁打。今季は24試合出場で打率・369、3本塁打と加速度的に成長している。今月15日に自身初の1軍昇格。「理想は全球どんな球もフルスイング。打率3割以上で本塁打も打てて走れる選手です」と目を輝かせる。

 今年から自身の全打席を映像で振り返り、相手の配球を分析。先輩の浅村、ヤクルト・山田、日本ハム・中田、広島・鈴木ら右の強打者の打撃映像も研究する。「色々な選手の打撃を参考にしています。目標の選手はいません。いると超えられないので」と頼もしい。

 野心の強さは育った環境に影響されている。茶髪で強面の外見から想像できないが、中学時代に所属した大阪府内の硬式少年野球チームでいじめに遭った。野球がうまかったことから、周囲の羨望が嫉妬に変わったのかもしれない。活躍しても仲間と喜びを共有できず、孤独感を味わった。

 「みんなに無視されたり、事実でない話が悪口で広まったり。一番仲良かった友達も話してもらえなくなりました。今でも初対面の人と話す時に疑いから入ってしまう。その時の影響だと思います。こんな外見ですけど繊細なんです」。

 精一杯の作り笑いを浮かべたが、多感な思春期に受けた心の傷の大きさは計り知れない。中学の卒業文集で綴った言葉は「いじめた奴をプロになって見返したい」。高校は地元の大阪府堺市から400キロ以上離れた埼玉・花咲徳栄に進学。「遠くへ行きたかったんです。誰も自分を知らない場所でとことんやりたかった」と覚悟を決めた。

 花咲徳栄は夕食後に午後10時まで自主練習の時間がある。「オレはへたくそやから休んでる暇はない。プロにもいけない」。1年春から3年間1日も自主練習を休まず、ひたすらバットを振り続けた。15年ドラフト4位で西武に入団。辛さ、怒りをバネに夢を叶えた。

 プロになり、心境に変化が芽生えた。女手1つで奮闘する母・まりさんの負担を減らしたい。愛斗には年の離れた2人の弟がいる。中1の次男・空太(くうた)くん、小6の三男・登輝(とき)くん。弟たちは愛斗が試合で安打を打つと、喜んで電話してくる。大好きな兄になかなか会えない寂しさもある。年末に大阪に帰省して再び埼玉に向かった際、隠れて泣いていたことをまりさんに聞かされた。

 「もっと頑張らないとって思います。家計を楽にするためにも、僕が弟たちの学費を払わないと。昔と違って今は自分のため、周りに恩返しの気持ちで野球に取り組んでいます」。

 大きな瞳で話す口調は穏やかで物腰も柔らかい。20歳の成長株は周囲を惹きつける不思議な魅力がある。家族の存在を支えに、日本を代表する強打者になってほしい。(記者コラム 平尾 類)

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2017年6月30日のニュース