進化する誠也の凄み「打席の中では何かが見つかる」

[ 2017年6月7日 10:15 ]

本塁打を放った鈴木誠也
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 4月27日のマツダスタジアム。巨人戦に備えて汗を流していた鈴木誠也が、練習の合間に話しかけてきた。その内容が衝撃だった。

 「ボク、ずっとヒットを打っていなかったみたいですね。全然気付かなかった」

 22日のヤクルト戦から25日の巨人戦まで、確かに3試合連続無安打だった。このうち2試合は4番の重責を担っていた。「気持ち的には4番目の打者」と言ってはいたが、普通は結果が気になり、安打を欲しがるものだ。だが、真顔で知らなかったと言う。鈴木誠也というスラッガーの本質がそこにある。

 つまり、打席では自分の感覚だけに集中していたわけだ。追い求めたのは昨季好調時のフォーム。悩みの発端は、昨秋のクライマックスシリーズ、日本シリーズにあった。スイングする際、無意識に左足のステップ幅が広がり、上体が投手側に倒れ込んでしまう悪癖を自覚。以来ずっと試行錯誤していた。

 「トップが浅く、強い打球が打てない。どうやったら、いい形で打ちにいけるのか。昨年オフからずっとモヤモヤしています…」

 5月中旬、3割超の打率を維持しながら、そう漏らしたこともあった。霧が晴れたのは20日、中日戦の第3打席だ。結果は又吉から空振り三振だったが、8カ月ぶりに悩みから解放され、確かな感触をつかんだという。逆転の発想と開き直りが奏功した格好だ。

 「ステップ幅を意識しても打ちにいけないのなら、幅など気にせず思い切って下半身で踏み込もうと思った。そうしたらステップ幅も戻った。今はしっかり打ちに行って見逃せる。この感覚はめっちゃ久しぶりです」

 現役時代に3度三冠王に輝いた中日前GMの落合博満氏は「打撃に答えはない」と言った。誠也自身も「打撃に完成はないと思う」として、打席でのトライを欠かさない。いかにして強い打球を打つか。厳しい攻めに対応しながら、理想形を求めて試行錯誤する。

 「打席の中では何かが見つかる。(又吉から)三振した時も見つかった。結果を恐れずに試してみることが大事だと思っています」

 4月11日の巨人戦で68代目の4番に就いたばかり。長く記者をやっているが、大役指名された直後なのに結果を追わず、これほど自分の信念に忠実で、探求心を持った選手は見たことがない。ましてやまだ22歳だ。広島にとどまらない、日本球界屈指の打者として羽ばたく日は遠くあるまい。(江尾 卓也)

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2017年6月7日のニュース