野球という仕事 駿太のグラブの中で打球が殺されるまで

[ 2017年6月4日 10:30 ]

<オ・ヤ>延長10回裏2死二塁、右翼線にサヨナラ適時二塁打を放ちガッツポーズする駿太
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 【君島圭介のスポーツと人間】野球には9つのポジションがある。投手が注目を集めるのは、そこからボールが動き始めるから。まして人数に対して野球の競技フィールドは広い。外野手が視線を集める機会は少ない。

 なかでも中堅手の孤立感は特別だろう。マウンドは遠く、一番近くを守るチームメートさえも40メートル以上離れている。後ろを振り返れば巨大なバックスクリーンがそびえ立ち、いつ来るか分からない打球を広大な守備範囲の真ん中でひたすら待つしかない。

 オリックスの駿太はグラウンドを取り巻く音が好きだという。「風の音とか、スタンドで大歓声が起きた直後にまだざわついている感じがいい」。中学生まで投手だった駿太は、マウンドで周囲の音に耳を澄ませていた。「とくに投手は独りになれる。マウンドで音を聞いていると気持ちが落ち着くというか、集中できましたね」。外野手に転向した今も変わらない。ポジションの周辺に漂う音を探し、耳を澄まして独りになる。

 1試合に投手が投じるのは120球程度。そのうち、中堅の守備範囲に打球が飛んでくるのは5、6球が平均的だ。

 駿太が1試合フル出場すれば120球ごとに守備位置を変え、120球ごとにスタートを切る。「1歩目をうまく切る準備は大事です」。高校野球に比べ、プロの外野手に派手なダイビングキャッチは少ない。投手が投げた瞬間には1歩目を切り、打球が守備範囲に向かえば放物線の先をイメージして加速している。観客の視線が向いたときには、もう捕球体勢に入っている。だからイージーな飛球と勘違いしてしまう。

 駿太は守備で「目立たない」ことを心がけている。1球ごとの予測とスタートで、すべての飛球をイージーに処理することが誇りである。外野手部門でゴールデングラブ賞を11度受賞した秋山幸二は1球ごとに得点差、カウント、風の強さ、フェンスとの距離など数え切れないチェックポイントを作って守っていたという。秋山は西武以外の11球団から投手での入団を誘われていた。プロでも投打の二刀流が可能だったのではと問われ、「そんなに練習したくないよ」と答えた。

 外野手がボールに触れるのは1試合に5、6度でしかない。だが、後ろには誰もいない。後方が深い中堅の場合は、とりわけミスが得点につながる可能性が高い。ときには勝敗さえ左右する。そんなプレーは数試合に1度かもしれないが、駿太は最高の準備を整え、その一瞬を待っている。周囲の音に耳を澄ませ、孤独の中で神経を研ぎ澄ませながら。 (敬称略、専門委員)

 ◆君島 圭介(きみしま・けいすけ)1968年6月29日、福島県生まれ。東京五輪男子マラソン銅メダリストの円谷幸吉は高校の大先輩。学生時代からスポーツ紙で原稿運びのアルバイトを始め、スポーツ報道との関わりは四半世紀を超える。現在はプロ野球遊軍記者。サッカー、ボクシング、マリンスポーツなど広い取材経験が宝。

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