マー君「プロフェッショナル」出演 密着取材班が見た“素顔と凄み”

[ 2017年5月1日 09:00 ]

「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演するヤンキースの田中将大投手。番組では貴重なプライベート場面も撮影。趣味の釣りに取材班が同行した(C)NHK
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 NHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」が米大リーグ、ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手(28)に密着した。73分拡大版で5月1日の月曜午後7時30分から放送する。今年1月、渡米前の自主トレから取材を開始。メジャー4年目、名門チームを背負うエースのさらなる高みを目指す闘いに迫った。趣味の釣りなどプライベートにも同行した同局の大久保圭祐ディレクターに、間近で見た田中の凄みと一流アスリートを追うスポーツドキュメンタリーの魅力について聞いた。

 <2006年にスタートし、さまざまな仕事の第一線で活躍する人々にスポットを当てる人気番組。今回の取材は大久保氏、カメラマン、音声、現地コーディネーターの4人でチームを結成し、田中に密着した>

――綿密な取材が番組の特長ですが、田中投手に対してどのような取材を行ったのですか?

「撮影を許されたところでは、朝から晩までほぼ密着させてもらいました。実は、最初のインタビューで“基本的に自分のことはあまりさらけ出したくない人間です”と密着取材が苦手だとハッキリ言われたのですが、“野球選手という仕事を知ってもらうきっかけになれば”ということと、“自分の過去を振り返る時の記録映像になるから”という理由で、できる限り努力しますと協力していただきました。日によっては移動の車に乗せてもらったり、プライベートでは家族で散歩する場面や、趣味の釣りに同行して撮影させてもらいました」

――プライベートの撮影で印象に残った場面を教えてください。

「ニューヨークでカメラマンが散歩しているところを撮影しました。里田まい夫人と(16年2月に誕生した)長男と3人で散歩するのを習慣にしているそうです。去年、散歩を始めてから気持ちがうまくリフレッシュでき、試合に良い影響があったので、そこから続けるようになったと。愛犬も連れて散歩する場面を撮影して、田中投手にとって家族がどんな存在なのかという話を聞きました」

――家族の存在について田中投手はどう考えていますか?

「それは、番組を見てのお楽しみ、ということで勘弁してください(笑い)。ヤンキースのエースという重責を背負いながらマウンドに立つ田中投手にとって、いかに妻や息子が心の支えになっているかが分かると思います」

――田中投手の趣味である「釣り」に同行したそうですね。

「釣りは子供のころからの趣味だそうで、バス釣りにフロリダの湖に行きました。ところが、3時間ボートで湖中を回ったが、なかなか釣れなくて…。田中投手は“釣り番組でもないですし、釣れなくてもいいのでは”と言いつつも、“最後にもう1カ所行きましょう”と。本人は諦めていませんでした。そして、ラストチャンスで約40センチの良型をヒット!同行していたプロのガイドの方も釣れなかったのですが、田中投手が先に釣ったのです。本人も凄く喜んでいて“野球と一緒で、粘ればいいことあるんですよ”と言ってました。最後まで諦めない気持ち…。やはり“持ってる”人だなと感心しました」

 <楽天時代の13年に前人未踏の24勝0敗。翌年に海を渡り、ヤンキースでは3年連続2桁勝利を挙げ名門球団のエースの座をつかんだ。大久保氏は田中の強さについて「気持ち」という言葉を挙げた>

――田中投手が大切にする「気持ち」について教えてください。

「中学時代の試合で悔しい思いをしたそうです。中学2年の夏の全国大会予選決勝。1点ビハインドで迎えた最終回、ツーアウトの場面で田中さんに打順が回ってきました。結果は凡退。それが野球人生の分岐点となったと本人がおっしゃっています。いわば、『あの悔しさを二度と味わいたくない』という思いが、田中さんを大きく成長させていったと思います」

――「気持ち」のほかに田中投手の強みはありますか?

「自己分析能力が非常に長けています。1球1球投げては“なぜいまの球はうまくいったのか?いかなかったのか?”と答えを常に探している。踏み出しが悪いとか、球の握りが良くなかったとか原因を分析して1球1球修正する。投げて確認してを繰り返して、引き出しをどんどん増やしていく。試合で調子が悪い時に、引き出しの中から改善策を取り出して瞬時に修正することができます」

「その秘密は、練習のキャッチボールにありました。そこまでやるか!と見ていて驚いたほどです。田中投手は、インタビューで『継続』や『積み重ね』という言葉をよく使います。その言葉のとおり、たしかに田中投手を見ていると日々の努力がいかに大切か分かります」

――「1アウトの意味」というタイトルはどのようにして決まったのですか?

「タイトル案は、いくつかあったのですが。“田中投手がもっとも大切にしているものは何か?”と制作陣で話し合いました。そこで取材を振り返ってみると、田中投手は自分が『勝利』すること以前に、確実に1アウトをとるために、日々の積み重ねを大切しているという場面に度々出会いました。その実感を込めて率直に、このタイトルに決めました」

 <オープン戦で最高の仕上がりを見せ、日本人初の3年連続開幕投手を担ったが、開幕戦で悪夢の7失点KO。だが、その後は見事に立ち直り、ここまで5戦で3勝1敗。番組では本来の投球を取り戻した田中の姿を追った>

――スポーツドキュメンタリーの難しさや醍醐味を教えてください。取材対象者が放送日直前の試合で、理想の結果を出せないこともありますが。

「作り手によって考え方が違うと思いますが、私は結果がどうであってもいい。どんな試合でも、本人が一生懸命に闘った部分は映像を通じて伝わると思います。実は、当初の密着取材は開幕戦までの予定でした。ところが、試合は異例の結果。放送日の兼ね合いもあり、一日も早く帰国しなければならなかったのですが、取材を続行しました。まさにここが、番組にとっても肝になると考えたからです。結果が予想できないのでスポーツドキュメンタリーは難しいのですが、だからこそ楽しいという遣り甲斐もありますね」

――番組作りで心掛けたことは?

「田中投手が仕事に向かっていく姿勢や哲学、日々の取り組みをきちんと見て伝える。私は野球経験者ではありませんので、練習を見て細かい技術論について迫るというよりは、田中投手の“気持ち”を最も大切にしました。“田中選手が大事にしているものが何なのか”をしっかりと撮り、聞き出すこと。そういった意味で、番組は野球ファンでなくても、多くのみなさんの心に響くものがあると思います」

――最後に田中選手の人物像について教えてください。

「まじめで実直なプロフェッショナル。一本気な人です」

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