育成契約から再起目指す37歳 西武・木村「野球人生はこれからピーク」

[ 2017年4月27日 11:00 ]

西武・木村昇吾内野手
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 4月中旬の西武第2球場。育成選手で背番号「121」をつけた西武・木村昇は、観客もまばらなイースタン・リーグの試合で三塁を守っていた。37歳のベテランは「右膝前十字じん帯打断裂」から約10カ月ぶりに実戦復帰。状態は万全に程遠いが、表情に焦りはなかった。「自分のイメージ通りに体が反応できないときがある。試合に出ていなかったから体もバリバリに張る。未経験なことなのでプラスにできるようにしたい」。

 移籍1年目の昨年6月22日。背番号「0」で新天地への恩返しを誓ったが、悲劇に襲われた。守備練習中に右足で三塁を踏んだ際、足が「逆くの字」に大きく曲がった。大きな痛みもなくそのまま練習に戻ろうとしたが、トレーナーに止められて都内の病院へ。検査の結果、じん帯断裂が判明した。「あまりにもひどくて笑っちゃいましたよ」。ショックがないはずがない。翌日から3日間、自宅のリビングで何もせず、放心状態だった。

 心が折れてもおかしくない。右膝をさすりながらその時を振り返る。「この膝は赤ちゃんなんです。できないことを考えたらきりがない。できることを考えて少しずつ前に進もうと」。2本必要だった松葉杖は1週間後に1本に。1カ月後に歩けるようになった。膝の曲げられる角度が60度、90度、120度と徐々に深くなった。歩く速度が少し上がった。走れるようになった。完治まで気の遠くなるようなリハビリ。ハードルを乗り越えるたびに、右膝を励まして労った。

 「昇吾、心が体を動かすんだ」。10年前の横浜(現DeNA)在籍時。谷川哲也2軍ストレングス&コンディショニングチーフコーチ(現西武チーフメディカルコーディネーター)に掛けられた言葉が、「感銘を受けた。宝物にしている」と今も心の支えだ。広島からFA宣言した15年オフ。移籍先がなかなか決まらず、翌16年の春季キャンプ中に西武への入団が決まった。年俸は4100万円から2000万円にダウンしたが、「自分で決断したことだから。昨年の広島のリーグ優勝も見ていました。みんな凄いなあって。刺激になります」と後悔はない。

 野球人生で味わう初めての大けがも、辛いことばかりではないという。リハビリ中は家で過ごす時間が必然に増える。「お父さんとの距離が近づいた気がする」と3人の子供たちに打ち明けられて心が温かくなった。過去に膝前十字じん帯の故障を乗り越えた中村、牧田、炭谷も相談に乗ってくれた。「サンちゃん(中村)に“昇吾さん、焦っちゃダメだよ。大丈夫だから”って言われて。3人ともバリバリの主力で活躍している。(気持ちを)共有できるのが心強い」と感謝を口にする。

 昨オフに育成選手で再契約を結んだ。支配下昇格の期限は7月末。「そこに意識がないと言ったらうそになる」と前置きした上で続けた。「みんなに笑われるかもしれないけど、僕の野球人生はこれからがピークだと信じている。40、50歳になっても野球をやりたいから」。プロ15年目。まだまだ道半ばだ。(記者コラム・平尾 類)

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