野球という仕事 工藤公康はプロ野球監督の常識を覆す

[ 2017年1月26日 08:30 ]

今季のスローガン「1(ワン)ダホー!」を手にポーズをとるソフトバンクの工藤監督
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 【君島圭介のスポーツと人間】壇上の工藤公康は受講者を見回し、「チームの戦力が落ちる最大の理由は選手のケガと障害です」と切り出した。東京都渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センター。全日本野球協会(BFJ)主催の野球指導者講習会で講師を務めていた。テーマは「育成論」だった。

 「みなさんはコマを回したことがありますか?」。受講者の多くは少年野球の指導者だ。工藤はボールを「握る」という行為とスピードへの憧憬がケガにつながると持論を展開。強く握って速いボールを投げる行為が肘に大きな負担をかけると説いた。

 「僕はプロにも子供にも“スピードよりコントロールを重視してトレーニングしなさい”と教えます」。投げる、守る、打つに近い形のトレーニングを推奨する。コマ遊びもそのひとつ。ドッジボールやハンドボールもいいという。「大きなボールを投げるには体全体を使う。ヒップファースト。おしりから倒れ込むイメージが自然と身につく」。受講生は熱心にメモ帳にペンを走らせた。

 工藤自身、小学生時代に一度、野球から離れた。その間、体操やサッカーに熱中し、中学でもハンドボールに打ち込んだ時期があるという。その経験が日本野球機構(NPB)歴代最長タイの通算29年の現役生活につながったと自負する。

 ソフトバンクは工藤と新たに3年の監督契約を延長した。まだ契約を1年残しながら長期政権を確約したのは、球団が描く未来への鍵穴に工藤のビジョンが明確にマッチしたからだろう。

 14年秋に監督就任する際、工藤は球団に選手を守るスタッフの増員を求めた。15年に1〜3軍を通して14人だったトレーナーやコンディショニング担当が、昨季は18人。12球団で最多だ。数を増やして任せきりではない。自らも頻繁に下部組織のグラウンドに足を運び、1軍コーチを含め全員に全選手の情報を共有させ、個々に合った指導法を議論する。

 工藤は言った。「(日本の球団が)メジャーの登竜門になるのは嫌。80年かけて先輩たちがつくってくださった日本野球を盛り上げたい」。ソフトバンクなら故障をせず、長く野球が出来る。目先の1勝より、優先することがある。

 ソフトバンクはドラフト会議で15年に3球団競合の末、高橋純平(県岐阜商)、昨年は5球団競合で田中正義(創価大)を引き当てた。「抽選は優勝がかかった日本シリーズのマウンドより緊張する」。その選手の人生がかかると思えば「一番合った球団にクジを引いてほしい」という。

 経営のために選手を放出するのもビジネスだが4、5年かけて育成し、その後10年、15年戦力とする。成功すればプロ野球史上かつてない常勝軍団が生まれる。

 工藤は少年野球指導者に訴えた。「障害がないだけで子供たちの夢が広がる。それが出来れば10年に1人の逸材が毎年出てくる」。10年、20年後も優勝するチームづくり。それが工藤に求められる結果。だからこそ少年野球の育成さえも人ごとではない。(専門委員、敬称略)

 ◆君島 圭介(きみしま・けいすけ)1968年6月29日、福島県生まれ。東京五輪男子マラソン銅メダリストの円谷幸吉は高校の大先輩。学生時代からスポーツ紙で原稿運びのアルバイトを始め、スポーツ報道との関わりは四半世紀を超える。現在はプロ野球遊軍記者。サッカー、ボクシング、マリンスポーツなど広い取材経験が宝。

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