野球という仕事 角中勝也は最強の2番打者になる

[ 2017年1月15日 08:30 ]

ロッテの角中
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 【君島圭介のスポーツと人間】KONAMIのゲームソフト「実況パワフルプロ野球」は12球団選手が実名で登場するばかりか、プロのスコアラーも舌を巻く詳細なデータが定期更新される。操作能力以上に先発オーダーや選手交代が勝敗を分けるリアルな野球ゲームだ。

 パワプロの愛称で親しまれる対戦型ゲームの全国決勝大会が1月8日、東京ビッグサイトで行われた。各予選から勝ち上がり、優勝した参加者が使用したチームは西武。選択したスタメンに唸らされた。「1番・浅村、2番・秋山、3番・中村……」。浅村、中村とも昨季は一度も起用されていない打順だが、全国の頂点に立ったのだからデータ上は理にかなっているのだろう。そしてゲームとはいえ打線が機能した要因は「2番・秋山」にあると思う。

 近年の米国は「2番には最強打者を置け」が通説だ。昨季108年ぶりにワールドシリーズを制した大リーグのカブスは、チーム最多39本塁打のクリス・ブライアントを2番に定着させた。2番打者は「3、4番より打席数が増える」「アウトカウントの少ない状況で打席が回る」が主な理由。そこに「犠打で確実に走者を送る」という発想はない。

 ロッテの角中勝也は「自分みたいなタイプは2番を打たないといけない」と話した。自らが「最強」というおごりではない。角中は続けた。「僕なら走者一塁の場面で一塁線に打球をコントール出来る。走者一、三塁の状況を作れる」。長打で走者を還すのではなく、犠打で二塁へ送るのでもない。バットコントロールで走者一、三塁を生み出せるという。

 昨季2度目の首位打者に輝いたリーグ最多安打男が言えば納得する。昨季の打率・339、出塁率・417。出塁率と長打率を合わせたOPSは・877に達し、リーグの規定打席到達者ではソフトバンク・柳田悠岐の・969に次いで高い。それでも自らを「2番タイプ」とするのは米国的思考とは少し違う。絶妙なバットコントロールに自信を持つからだ。

 数値化するのは難しい。角中は「一塁手の位置を見てどこに転がせば抜けるかが分かる」と言った。それを具現化するのが対戦投手で使い分ける2本のバットだ。角中は対右、左投手でバットを変える。右投手用は900グラムだが、左投手用は10グラム軽い。その理由を「タイミングが合わなかったとき小手先でカットしやすいから。手だけで操作するには軽い方がいい」と説明した。

 さすがのパワプロでもデータ化できない繊細な妙技だ。昨季チームでは143試合中141試合でクリーンアップを担ったが、本来は15年シーズンに15本塁打した清田育宏の仕事だろう。角中が「2番」に座るとき、ロッテの野球が変わる。そう確信した。(専門委員)

 ◆君島 圭介(きみしま・けいすけ)1968年6月29日、福島県生まれ。東京五輪男子マラソン銅メダリストの円谷幸吉は高校の大先輩。学生時代からスポーツ紙で原稿運びのアルバイトを始め、スポーツ報道との関わりは四半世紀を超える。現在はプロ野球遊軍記者。サッカー、ボクシング、マリンスポーツなど広い取材経験が宝。

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