大谷二刀流成功させた栗山監督の信念「人のためなら必死になれる」

[ 2016年11月25日 09:15 ]

お立ち台で目を潤ませる日本ハム・栗山監督
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 以前、車のハンドルを握っていると、助手席に座る日本ハム・栗山監督から突然投げかけられた言葉がある。「子どものためならば死ねるよな」。いきなりの問いかけに、一瞬言葉に詰まったが、「子どものためならば…」と答えた記憶がある。

 栗山監督は「そうだよな」と静かにつぶやいていた。北海道栗山町で、指揮官は一人で暮らす。朝から晩まで野球のことを考え、あらゆる書物を読みあさり、チームのため、選手のためになるヒントを探している。唯一の気分転換は自前で造った天然芝野球場の芝刈りだ。大げさではなく、すべてを野球に捧げている。

 「オレには子どもがいない。だからその分、自分の子どものように選手たちのことを思えるんだろうな」――。プロ野球の監督として、チームの勝利が一番大事だが、栗山監督は自分の家族である選手たちをどのようにしたら輝かせてあげられるか。彼らが幸せになるのかを考えている。「人は自分のことだと手を抜いてしまう。でも、人のためと思ったら必死になれるだろ」とも言った。凄い人だと思った。

 栗山監督は「勝負師」というよりも、「教育者」と感じている。プロ野球選手、スポーツキャスター、大学教授といった顔を持っているが、個人的には「小学校の先生」のようなイメージが強い。東京学芸大出身で、学生時代には小学校で教育実習も行っているはずだ。ちょっと天然で、子どもたちと同じ目線でさ細なことに一喜一憂して涙まで流してくれる。そんな熱血先生だ。

 生意気で、プライドの高いプロ野球選手に対しても、先生が子どもたちに体当たりでぶつかるように接している。まっすぐに目をみつめて本音で語り合い、選手が頑張った姿を見るとすぐに泣いてしまう。当初は「絶対にできるはずがない」との声が大きかった大谷の二刀流も成功させた。

 「オレは何を言われてもいい」とよく言っていたが、本当は批判的な記事やテレビを目にすると心を痛めていた。それでも、大谷の能力の大きさを疑うことはなかった。今ではメジャーも、大谷の二刀流に関心を持ち始めている。今季クローザーで結果を残せなかった増井も先発転向させると、侍ジャパンに選ばれた。本塁打王に輝いたレアードだって昨夏の時点で打率1割台だった。栗山監督でなければ、増井は中継ぎで敗戦処理。レアードは日本にいることもなかったはずだ。

 リーグを代表する選手となった西川、中島の台頭も、中田、陽岱鋼だって栗山監督が就任してから一人前になった。右肩故障から完全に復活しきれない斎藤だって、ここからもう一度ブレークするかもしれない。その可能性を指揮官は微じんもあきらめていないからだ。

 「なに、プライベートな話まで書いているんだよ」――。これを読んだら栗山監督は怒るだろうか?でも、就任5年で2度目のリーグ優勝。しかも今年は日本一。そんな凄いことができたのは、どこまでも純な気持ちで野球と向き合い、人を信じ続けているからなんだと思う。(記者コラム・横市 勇)

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2016年11月25日のニュース