野球という仕事 銀次の努力を凌駕する特異な才能「空振りが難しい」

[ 2016年11月21日 09:00 ]

打撃練習する楽天・銀次
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 【君島圭介のスポーツと人間】4年前の岡山・倉敷の楽天秋季キャンプ。夕暮れ時のマスカットスタジアムに星野仙一の怒声が響いた。

 「銀次はもう振らんでええ!」

 練習のやり過ぎで闘将に怒られた選手は後にも先にもこの男だけではないだろうか。

 今年の秋季キャンプ。同じ球場で銀次は同じようにバットを振り続けていた。

 「練習するのは長く野球をやるため。シーズンが終わるとまた“やっておかなければ”と思う。僕が最後までやれば若い選手もやるし、それがチームを強くする」

 星野をあきれさせるほど振ったバットで13年は打率・317を記録。東北に初のペナントをもたらすと、14年は・327、15年は・301と3年連続3割を超えた。ところが……。

 「空振りが難しい。全部当たっちゃう」

 これみよがしの言葉では決してない。銀次の表情は真剣だ。

 今季、打率・274と苦しんだ。首位打者争いの常連が、シーズン中盤までは規定打席到達者の下位に止まった。

 銀次の特異な才能はデータも証明する。13年を振り返れば525打席の中で喫した空振り数はリーグ最少の59。他球団で目立って空振りの少ないロッテ・角中でもこの年、同じ525打席で101だから、いかに銀次がコンタクトのうまい打者なのかが分かる。

 その天賦の才が今年の銀次を苦しめた。梨田昌孝は「打つ技術のありすぎるところが欠点。ボール球でも打ててしまう。空振りするくらいがいいのだけど」と指摘した。難しい球に手を出して凡打し、打率を下げた。それでも空振り数は76でリーグの規定打席到達者の中で4番目に少ない。

 銀次は言う。「難しい球でも体の中で“打てる”と思うから反応してしまう。それが結果的に率を下げている」。打席でボールを捉えるために打者は血マメを潰しながらバットを振り続ける。「バットに当たっちゃう」という悩みは、尋常ではない練習量をこなす銀次だからこそ直面した究極のジレンマだ。

 秋季キャンプでは若手に交じって居残り特守、特打を連日行った。プロ1年目で遊撃の定位置を掴んだ茂木栄五郎は「銀さんがいなければ駄目だったと思う。一塁に悪送球してもちゃんと捕ってくれて、謝ると“いいボールだったよ”と言ってくれる。打撃のアドバイスも大きい」と言った。

 「シンプルに打てる球を打つしかない」

 銀次が辿り着いたのは打撃の原点だった。そんな姿を見守った梨田は「ちょっと変わった」と目を細めた。

 天才がゆえの悩みとしか思えない今季の不振。銀次はその殻を突き破るため、バットを振り続ける。(専門委員、敬称略)

 ◆君島 圭介(きみしま・けいすけ)1968年6月29日、福島県生まれ。東京五輪男子マラソン銅メダリストの円谷幸吉は高校の大先輩。学生時代からスポーツ紙で原稿運びのアルバイトを始め、スポーツ報道との関わりは四半世紀を超える。現在はプロ野球遊軍記者。サッカー、ボクシング、マリンスポーツなど広い取材経験が宝。

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