紅白戦でも“意外”措置「より実戦に近い形でやろうと」

[ 2016年11月5日 10:00 ]

紅白戦3回裏無死一、二塁、バントを試みて負傷し、ベンチに下がる俊介

 【内田雅也の追球】野球では何でも起こりうる。突拍子もない出来事があったとき、大リーグの選手や監督はよく、「イッツ・ア・ベースボール」と口にする。「それも(一つの)野球だ」と受け入れる。

 つまり、試合中、どんなことが起きてもあわてない姿勢が望まれる。雨が降ろうが風が吹こうが……、転んでも倒れても……その時々で対処できる順応性がいる。練習での準備とは、そういうことである。

 この日、阪神の秋季キャンプで行われた紅白戦で、ちょっとしたアクシデントがあった。3回裏、紅組の攻撃。想定の無死一、二塁で打席に立った俊介は送りバントを2球続けてファウルした。左腕・山本翔也がバント阻止に続けて投げ込んできた内角球だった。2球目、切れ込むスライダーが俊介の右手に当たり、傷んだ。ベンチに戻ったが負傷退場となった。(断っておくが、俊介の負傷は残念な出来事だ。大事に至らないことを願っている)

 この時、三塁コーチボックスのヘッドコーチ・高代延博が三塁ベンチ前の監督・金本知憲と何ごとか会話していた。

 「相談よね」と試合後、高代は言った。俊介のプレー続行は不可能だ。ただし、そのまま、プレーは続けるという決断が下った。つまりカウント0ボール―2ストライクのまま、代打を出し、プレーを再開する、というわけである。

 少なからず驚いた。練習である。選手が負傷退場となれば、次の打者が代役となり、ニューカウント(0―0)から再開するとみていた。

 「いや、実戦でもあんなことは起こりうる。実戦では当然、代打を出すしかない。より実戦に近い形でやろうということだ。監督もそのつもりだったと思うよ」

 金本が代打に指名したのは北條史也で、打席に入った初球、スリーバントを捕前に決めてみせた。「代打は誰であれ、あの姿勢がいる」と高代もたたえる緊急代打での一発成功だった。

 これが野球である。いわゆる「練習のための練習」ではなく「試合のための練習」だ。予想しないアクシデントに対応する姿勢を鍛えるのだ。

 連係守備練習で、当然刺殺できる挟撃になった時も、チーフ兼守備走塁コーチ・平田勝男が必ず「やれやれ! そのまま続けろ」と最後まで続けさせるのも同じ意図だろう。実に野球らしい練習だった。 =敬称略= (スポニチ編集委員)

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