【キヨシスタイル】チームの意識統一 栗山野球を象徴する賢介の同点ホームイン

[ 2016年11月1日 09:00 ]

<日・広>日本シリーズ第5戦、7回裏1死一三塁から岡の中飛で三塁走者・田中賢が同点の生還。捕手・石原

 しびれたねえ、今年の日本シリーズ。随所に野球の醍醐味(だいごみ)がちりばめられていた。中でも私の心に突き刺さっているのは勝った方が王手をかける第5戦、日本ハムの果敢な走塁だ。

 0―1で迎えた7回1死一、三塁。岡の浅い中飛で三塁走者の田中賢が本塁へ突入した。広島の丸がストライク返球をすれば、2メートル前でアウトのタイミング。だが、丸はまさか走ってくるとは思わなかったに違いない。慌てた送球は三塁側にそれ、田中賢は同点のホームを陥れた。

 ベンチと三塁ベースコーチの白井、そして走者の気持ちが一つになっていないとできない走塁。浅いフライでも行く。今年から導入されたコリジョンルールも頭に入れ、ミーティングで徹底していたに違いない。ダブルプレーになるリスク覚悟のチャレンジが相手のミスを誘発したんだ。

 2004年アテネ五輪を思い出したよ。台湾戦3―3の延長10回。1死満塁になったとき、三塁走者の高橋由伸(現巨人監督)がわざわざベンチまで戻ってきた。「浅いフライでも勝負しますか?」。病に倒れた長嶋茂雄監督に代わってヘッド兼打撃コーチとして指揮を執る私に確認するためだ。もちろん「行くぞ」と答えたけど、予知能力というか何というか。小笠原道大(現中日2軍監督)の打球は浅い左飛。由伸は頭から突っ込んでサヨナラのホームを奪い、予選リーグ突破を決めた。

 あらゆるケースを想定してチームの意識を統一し、準備する。どっちに転ぶか。それが勝負のあやなんだけど失敗したとしてもチームの決めごとなら後に引きずらない。成功すれば相手に与えるダメージは大きい。このシリーズ、常に早めに仕掛けていった栗山監督の野球を象徴する本塁突入だった。

 第6戦では4―4の8回2死満塁ではネクストバッターズサークルに大谷を立たせて相手をびびらせ、押し出し四球を誘った。高いレベルで相手の嫌がる野球を展開する栗山采配。最大11・5ゲーム差からパ・リーグを制したのもうなずける。

 それにしても2連敗の後、全て逆転勝ちの4連勝。リオ五輪も逆転、逆転で沸いた今年の総決算にふさわしい結果だったのかもしれないね。(本紙評論家・中畑 清)

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2016年11月1日のニュース