インパクトのあるインパクト写真を撮るためにボクらがやってきたこと

[ 2016年10月12日 09:40 ]

パ・リーグCS第1Sより捕手のミットの動きに合わせたインパクト撮影の実例。上段左から第1戦の内川の同点弾、第2戦の明石の同点打、本多の勝ち越し打。下段左から第1戦の清田の先頭打者本塁打、デスパイネの本塁打。ソフトバンク選手の方が撮影タイミングがいいのはロッテ担当として田村捕手の動きに慣れていたからです
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 【長久保豊の撮ってもいい?話】声が2階から降って来る。「シャシン、ミセテ!」。

 片言の日本語ながら有無を言わせぬ迫力、ぶっとい腕でマウスをつかむや連続クリック。お目当ての写真を探し当てると、前後の数カットを真剣にチェック。

 「ダメ、ヘタクソ!」とだけ言い残し別のカメラマンが作業するパソコンに向かう。彼が通った後には技量を否定されたカメラマンたちの屍が累々と横たわるのみ。

 西武などでプレーしたアレックス・カブレラ選手。試合後にはカメラマン席にやって来て打撃フォームをチェックするのが常だった。写真に対する辛辣な批評は各社の鬼デスク以上と噂されたものだ。

 インパクト=バットがボールと当たる瞬間。撮れなきゃ始まらない野球写真の基本だが実は一番難しい。(1)トリモチ=バットとボールが完ぺきにくっついて潰れて見えるもの(2)キノコ=弾かれたボールの軌跡が残りバットからキノコが生えているようにみえるもの(3)普通のインパクト=ミート後のバットとボールの位置が30センチ以内のもの。一言にインパクトと言っても許されるのはこの3つだけ。ダメとされているのはクラッカー。これは「てなもんや三度笠」の「あたり前田のクラッカー」が由来。当たる前、つまりインパクト前の写真のこと。50年も前からボクらの世界では同じ言葉が使われているのだから故藤田まことさんや前田製菓さんには迷惑な話。

 踏み出す足のかかとが地面に着いたとき。軸足のヒザが内側に捻転を始めたとき…etc。完ぺきなインパクトを撮るためにカメラマンそれぞれが独自のタイミングを持っている。1、2、3で振る打者ならばこれでいい。だがプロの世界はクセ者ぞろい、一筋縄ではいかない。

 「打者ばかりを見てるからダメなんだ」

 もう四半世紀前に先輩から言われたことを思い出す。

 「ファインダーの中には他に何が見える?」

 捕手だけです。そう答えたと思う。

 「捕手のミットは捕球の前に必ず開くんだよ。両チーム合わせて18人の打者のクセを覚えるのと2人の捕手のクセを覚えるのとどっちが早い?」

 確かに捕手のミットは投球がベースを通過する数メートル前から動き出す。目からウロコってやつだった。

 こうして覚えた仕事の技も機材の進化で過去のものになりつつある。動画と静止画の区別があいまいになり、動画から決定的瞬間を切り出すのは現実になりつつある。恨み言は言わないが寂しさはある。

 さてカブレラ選手の後日談。彼と仲が良かった先輩カメラマンが言う。

 「彼はインパクトの写真はどうでもよかったの。球を打ちに行くときに両肩とグリップを結ぶ三角形がきちんと出来ているか、を確認していただけ。だから探していたのは当たる前の写真だったんだ」

 早く言ってよ。(編集委員)

 ◆長久保 豊(ながくぼ・ゆたか)1962年生まれの54歳。45歳を過ぎたころから写真が曲がりだし、最近は車庫入れでも車が真っすぐ入らない。秘密結社ロウガンズ(老眼)所属のカメラマン。

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2016年10月12日のニュース