優勝してこその二刀流…大谷、栗山監督に約束「今年日本一に」

[ 2016年9月29日 05:30 ]

<西・日>完封で優勝を決めた日ハム・大谷はガッツポーズして喜びを爆発させる

パ・リーグ 日本ハム1―0西武

(9月28日 西武プリンス)
 二刀流4年目で悲願成就――。優勝へのマジックナンバーを1としていた日本ハムは28日、西武と対戦。大谷翔平投手(22)が優勝決定試合では史上初の1―0完封を達成し、4年ぶり7度目のリーグ優勝を決めた。わずか1安打で今季最多の15三振を奪う圧巻の投球で10勝目。史上初の2桁勝利、2桁本塁打、100安打を達成し、最大11・5ゲーム差からの大逆転Vに導いた。小学2年で野球を始めて以来、優勝と無縁だった男がプロの舞台で「人生初優勝」を成し遂げた。

 天高く、目いっぱい両手を突き上げた。大谷が捕手・大野と熱く、熱く、抱き合った。1―0の9回2死一塁。外崎の打球が左翼・西川のグラブに収まると、マウンドに歓喜の輪が広がった。

 「最後は走者がいたので、(打球が)前に落ちないように願っていた」。背番号11はマウンドに歩み寄った栗山監督と熱い抱擁を交わすと、8度宙を舞った指揮官を、その下でしっかり支えた。

 前日は優勝マジック1で足踏み。西武の先発は尊敬する花巻東の先輩・菊池だった。試合前、首脳陣に頭を下げた。

 「こんな最高の舞台を用意してくれてありがとうございます」。栗山監督は涙を流した。その気持ちがうれしかった。大谷は「昨日(優勝を)決められなかったのもそう。自分の番で(先発が)回ってくるのもなかなかない。雄星さん(菊池)が先発ということも僕的には特別な感覚。勝つには最高のシチュエーションだった」と振り返る。

 何かに導かれるように回ってきた大一番で、自身初の1安打完封。自身が持つ球団記録にあと1つに迫る15三振を奪い、4年ぶりのリーグ制覇に導いた。「込み上げてくるものがあったけど(9勝目を挙げ、首位を奪取した21日の)ソフトバンク戦とは違って淡々と冷静に投げることができた」。9連勝で3年連続2桁の10勝目。前人未到の「10勝、20本塁打、100安打」を成し遂げた。

 開幕投手で幕を開けた4年目。栗山監督に告げられたのは、アリゾナキャンプ中の2月6日だった。二刀流の元祖で「野球の神様」と呼ばれたベーブ・ルースの誕生日。粋な計らいだった。監督室に呼ばれた。「何でもいいから俺に手紙を書いて」。大谷は迷うことなく、ペンを走らせた。

 「今年、日本一になります」。文章の一節にそう書いた。チームを背負う覚悟を決めたのだ。栗山監督からは「俺に約束する必要はない。自分に約束しなさい」と言われた。常々、大谷が指揮官から伝えられてきたことは「このチームを優勝させろ」ということ。それこそが二刀流を続ける真の意味。大谷自身が一番、理解していた。

 開幕から勝ち星に恵まれなかったが、転機は「リアル二刀流」。5月29日楽天戦(コボスタ宮城)で初めてDHを解除されると白星を重ねた。「1番・投手」で起用された7月3日ソフトバンク戦(ヤフオクドーム)で投手として史上初のプレーボール弾を放ち、球団新の15連勝に貢献。自身のプロ野球記録を更新する164キロも計測した。

 小2で野球を始めて以来、全国大会での「優勝」は一度もなかった。花巻東では2年夏、3年春に甲子園出場もいずれも初戦敗退。最後の夏も岩手大会決勝で涙をのんだ。岩手県奥州市の自宅のリビングには一枚の写真が飾られている。2年夏の岩手大会決勝。股関節を痛めて右翼手で出場し、外野からマウンドに走って捕手と抱き合った。記念の一枚だが、心の底から喜べない一枚だった。あれから5年。優勝を決める大一番で先発マウンドを任され、胴上げ投手にもなった。心の底から喜ぶ22歳がいた。

 高校から即メジャー挑戦の夢は断念し、二刀流に夢を見いだした。「投手に専念すべき」。そんな批判的な意見も圧倒的なパフォーマンスで球界の常識を変えた。二刀流でフル回転し、堂々のMVPの最有力候補。最大11・5ゲーム差からの奇跡の逆転ドラマは142試合目に完結した。大谷の魂の125球。プロ野球の歴史にまた新たな伝説が生まれた。(柳原 直之)

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