【内田雅也の追球】鳥谷、見事なまでのトンネル 不屈の安打で取り返す

[ 2016年9月28日 10:25 ]

<神・ヤ>8回1死、鳥谷は中前打を放つ

セ・リーグ 阪神4―3ヤクルト

(9月27日 甲子園)
 何度も書くが、野球は失敗のスポーツであり、ミスは付き物である。

 そのためだろう。「ミスをした方が負け」という言い方がある。これは特に日本野球で根強い考え方である。打ち勝つ野球を目指すアメリカと、守り抜く精神を鍛える日本。国民性が出ている。

 ただし、この「ミスをした方が負け」について広澤克実(スポニチ本紙評論家)はもう少し丁寧な言い方をしている。「実際にミスは起きる。だから、そのミスをカバーできなかったり、取り返せなかった方が負けるんです」。

 この夜、阪神は数多くのミスを犯したが、最後に取り返して見せた。失敗を糧にした勝利は教訓的だ。不撓不屈(ふとうふくつ)の精神が見えるではないか。

 なかでも、鳥谷敬を取り上げたい。1―1同点の7回表、2死一、二塁から三ゴロ失策で勝ち越し点を献上した。ボテボテのゴロがやや三塁ベース寄りに転がり、腰を落とし大事に捕りにいき、両手を上げた直後に緩い打球が股間を抜けていった。見事なまでのトンネルだった。論評する必要もないミスである。

 ただし、鳥谷の不屈はその後である。2―3と1点を追う展開となった8回裏1死、ルーキのスライダーに食らいついた一打は中前に落ちた。4連打逆転の口火を切る安打となったのだ。

 ミスは他にいくらもあった。先発・青柳晃洋はモーション、いや癖を盗まれ二盗を2度許した。けん制悪送球もバント処理悪送球も犯した。

 新人投手は「すみません」「申し訳ありません」と降板後に語っている。非常に日本的だ。アメリカなら謝りなどしない。ただし、この「すみません」の意味は単なる謝罪だけではない。

 辞書によると、由来は「済む」を打ち消した「済まぬ」「済まない」。同源の「澄む」から「濁りや混じりけがなくなる」、つまり「気持ちが収まる」「気が晴れる」といった意味もある。

 だから「すみません」には感謝の意味として「何のお返しもできず、すみません」と使う。

 野球選手がミスした時に使う「すみません」は「そのうち、返してみせる」という意味にも取れるではないか。

 鳥谷が口にしたかどうか知らないが、心中では「すまない」と思っていたことだろう。だから、あの飛球は中前に落ちた。心が澄んだ。

 失敗の多い野球では「すみません」の精神が生きてくる。 =敬称略=
 (スポニチ本紙編集委員)

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