あえて捕球しない巨人・菅野の選択…一流選手共通の「自制心」とは

[ 2016年9月27日 10:30 ]

8月24日の広島戦の4回無死一塁、広島・丸を併殺に打ち取る巨人・菅野

 「おっ」と思わず声が出た。まさに一瞬の判断力。そのプレーについて後日、記者の見立てを質問すると、うれしそうに笑ったのは、巨人・菅野だった。

 「マニアックですね。でも、そういう風に見て気づいてもらえると、こっちもうれしいものですよ。どんどん、マニアックに見て下さい」。

 8月24日。東京ドームでの広島戦だった。4回無死一塁、打席には3番・丸。初球、149キロのワンシームを打ち返したゴロが菅野の右足の外側を襲った。捕球できる打球だったが、菅野はすんでのところでグラブを引っ込めた。スルーされたゴロは遊撃手の坂本が二塁ベースの左で捕球し、二塁を踏んで遊ゴロ併殺打が完成。はたから見ればそれほど引っかからないプレーだったかもしれないが、記者は菅野がグラブを差し出しかけて思いとどまった動きに感嘆した。

 「(坂本)勇人さんには前からああいう打球には“触らないでくれ”って言われていたんです。もちろん、捕れる打球でしたけど“あっ”と思ってグラブを引っ込めました」。

 もちろん、菅野が捕球しても1―6―3の併殺打となっていただろう。だが、プレーとしては坂本がゴロを捕球し、二塁を踏んで一塁転送した方が、スピードも速いし、ミスが起こる可能性も減る。改めて記せば菅野が打球処理した場合は(1)菅野がゴロを捕球(2)菅野が二塁へ送球(3)坂本が捕球(4)坂本が一塁送球(5)一塁手が送球を捕球の5つのプレーが必要。実際のプレーは(1)坂本がゴロを捕球(2)坂本が一塁送球(3)一塁手が送球を捕球、と3つのプレーで済む。さらに、菅野が捕れると踏んでグラブを差し出したものの、捕球できずに打球を弾けば、併殺どころか1死も取れない可能性が出ることになる。

 イチローがマリナーズ時代に「やっと空振りができるようになった」と発言したことがある。打つべきではない、ボールを打ちにいってしまった瞬間に、投球をわざと空振りするという高度な技術を表した言葉だ。菅野のプレーは感覚的にはこのイチローの空振りに近いのだろう。捕りにいって「まずい」と思ってその通りに体の動きを制御する。これも一流選手に共通する感覚と、能力なのだろう。

 セ・リーグの打率トップを走る坂本も同じだ。今季は26日の時点で、プロ最多だった昨年の65個を大きく上回る80個の四球を選んでいる。そして、今季の四球の場面。必ずと言っていいほど、打ちにいって両腕が止まる動作が印象に残っている。全力でプレーする中で自分をコントロールする力を、とっさの場面で発揮できるどうか。「自制心」。一流選手に共通する大きな能力は、何気ない動きに隠れている。(春川 英樹)

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2016年9月27日のニュース