広島・倉の11年目の真実 日南ブルペンで起きた事件とは

[ 2016年9月25日 09:30 ]

05年日南キャンプで投げ込みを終え、倉(右)と話し込む黒田

 広島の倉義和捕手(41)が25日、ヤクルトとの本拠地今季最終戦をもって、19年間に及ぶ現役生活に別れを告げる。いじられキャラだが、努力家で人情味あふれる男。その足跡をたどる時、いの一番に思い出されるのが、黒田に叱られた11年前のあの話だ。曲解されているため、彼の名誉(?)のためにも真実を詳らかにしておく。

 「オー、倉ァ、音をちゃんと鳴らせよ。クロが投げとるやろ!」

 事件が起きた2005年春。キャンプ地・日南のブルペンでは、怒気を含む山本監督の声が倉に向けられていた。黒田の投球を受けるものの、パンという捕球音が響き渡ることはなく、鈍い音しか鳴らない。“アカン、鳴らさな、アカン”。指揮官の言葉が胸に突き刺さり、捕手は次第に追い詰められていった。

 音は鳴るはずだった。なぜなら「(使っていたのは)新品のミットと伝えられていますが、まっさらではなかったし、何回か捕球して音が出るのも確認していたので」。ところが、鳴らない。焦れば焦るほど、音は出ない。慌てふためいているうちに、黒田から「何をしているんや!」と一喝されたわけだ。

 「プレッシャーが先にきて、捕る方がおろそかになっていました…」

 キャンプの時点で新品ミットを慣らしていたことが、右腕を怒らせた原因と巷間伝わるが、実際はキャッチング技術の問題だった。だが、この事件は倉にとって大きな転機になる。その年は、自己最多の109試合に出場。このうち28試合は黒田が先発しており、移籍する07年まで“専属”でマスクをかぶった。

 「黒田さんには“何を言うてんねん”と言われるかもしれないけど、アレで自分は1軍に定着できましたからね。一つのキッカケでした」

 仲のよい新井が11年前の件で「倉さんはボクに言い訳をしてきた。それを黒田さんに伝えたら、また怒られていたのが思い出」と笑った通り、どこか憎めない存在。ただし、専属捕手として認められたのは信頼を勝ち取り、結果を残したからこそだ。12年4月6日のDeNA戦では、前田健のノーヒットノーランを引き出した実績もある。

 1年前に引退を申し入れたが、球団は慰留。2軍バッテリーコーチ兼任となった今季は、早朝から大野練習場で体を動かし、無言で範を示してきた。「倉は選手を叱ることができる」という声を聞く。叱られて成長した苦労人の一言一言は、若ゴイたちの血となり肉となるに違いない。(広島担当・江尾 卓也)

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