【内田雅也の追球】秋山、相手に学んだ姿勢 42歳・三浦は生きた教科書

[ 2016年9月17日 09:53 ]

<神・D>お立ち台でガッツポーズの秋山(左)と福留

セ・リーグ 阪神2-1DeNA

(9月16日 甲子園)
 1点差の9回表2死、一塁ベンチの阪神先発の秋山拓巳は祈っていたことだろう。4年ぶりの勝利がかかっていた。最後の打者が三振に倒れ、白い歯がこぼれた。

 同じ最後の場面、DeNA先発の三浦大輔は三塁ベンチ最前列で立ち上がっていた。祈るというより、応援で声をからしていたのである。

 プロ野球新記録となる24年連続勝利がかかったマウンドだったが、5回途中で降板、可能性は消えていた。それでも登板前に「チームの勝利のために投げる。そのうえで自分に白星がつけばいい」と語っていた、チーム第一の姿勢が現れ出た光景だと言えるだろう。

 4年も勝てなかった秋山が、23年連続で勝ち続けてきた三浦に学ぶべきはあの姿勢だろう。

 高校出新人で4勝をあげた秋山は大器と期待されたが、その後は伸び悩んだ。2軍戦では打者を圧倒し、好成績を残すのだが、1軍では結果が出なかった。もうプロ7年目、25歳だった。何かが足りなかった。

 この夜、投げ合った球界最年長42歳の三浦が手本となった。

 通算317勝の鈴木啓示(元近鉄=本紙評論家)は「投手が戦う相手は打者ばかりではない。相手投手とも戦っている」と語る。相手投手の投球を観察しながら、その心理を探りながら過ごす。それが投手の習性だ。

 ならば、秋山は三浦の配球、組み立てを見ていた。「見よう見まね」こそ一番の勉強なのだ。

 捕手のサインに首を振った後、右打者内角にシュートを投げたことが幾度かあった。昨年まで2軍で指導していた投手コーチ・香田勲男は「以前は打者の体の近くに投げるのを嫌がる傾向にあった。シュートを覚えたことで幅が広がった」とたたえた。あのシュートは三浦がマウロ・ゴメスや北條史也に投げていたのと同じ攻め方である。

 さらに、三浦が随時、守る野手陣を気遣う姿勢も見ていたはずだ。投球テンポにも気を配る。

 その点で、秋山が4回表、先頭打者が北條の失策で出塁した後、強打の筒香嘉智以下を打ち取った粘りは見事だった。前夜も書いたが、今季の阪神投手陣は味方失策の後を踏ん張れない。ミスの後こそ無失点でしのげば野手は感謝する。投打の信頼が深まる。野球はやはり、心で結ばれたチーム競技なのだ。

 敗戦投手から「勝てる投球」を学んだ勝利投手だった。 =敬称略=(スポニチ編集委員)

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2016年9月17日のニュース