【内田雅也の追球】負け慣れたシーズンに似ている?甲子園に危険な兆候

[ 2016年9月7日 09:25 ]

<神・巨>またしても甲子園で勝利ならず、最後の打者となり悔しげな原口

セ・リーグ 阪神2-4巨人

(9月6日 甲子園)
 甲子園は静かだった。ため息も罵声もあったが、ごくわずかである。

 「伝統の一戦」が泣いている。また巨人に負けた。甲子園で負けた。

 今季、甲子園での巨人戦は開幕から勝ち星がない。1分けをはさんで7連敗は球団史上3度目の汚名である。

 過去2度は球団最低勝率の1987年と泥沼の91年。どちらのシーズンも甲子園で取材していた。負けがかさむにつれ、選手もファンも、どこか冷めた目になっていった。負け慣れたのだ。

 今も危険な兆候だ。一つはファンである。この日、満員御礼の大入り袋が出なかった。雨で不入りだった6月30日DeNA戦以来で、甲子園の連続大入りは17試合で途絶えた。甲子園では実数発表となった05年以降、3万7千人以上で「袋」が出る。観衆発表は3万6231人だった。

 空席が目立つスタンドを見渡して記者席に座った。プレーボール直後の空に目を見張った。夕焼けのオレンジに夜のパープルが重なる。試合前に雨を降らせた入道雲のかけらに、いわし雲が混じっていた。夏とも秋とも言えぬ空模様で「行合(ゆきあい)の空」という美しい日本語がある。

 季節は秋に向かうが、野球選手は夏がいい。

 この日が命日だった山口洋子の短編小説『叱られて』=『飛行機』(光文社)所収=に、プロ野球選手しか愛せない女性が登場する。理由は「旬の季節がある」という。「春だか秋だかわかんない、うすぼんやりした男ばっかりだけど、プロ野球選手には、はっきり夏の旬がある。その夏をバカみたいに息を切らせて追いかけてる姿が好きなのよ」。

 実生活でもプロ野球選手との交流が多かった山口は魅力の核心を突く。

 この夜の阪神選手は夏だったか。以前も書いたが、相変わらず、捕手のサインに何度も首を振り、投げた後は首をかしげる藤浪晋太郎はどうか。

 5回表、上本博紀がゴロをはじき、悪送球もして失点した。9回表は柴田講平が中前打をはじいて三進した走者が原口文仁の捕逸で還った。これだけミスが失点につながれば勝てる道理はない。

 広く、風が吹き、土と天然芝の甲子園は、守り合いの舞台だ。甲子園で勝てない原因が見て取れる敗戦だった。

 人生の夏は短い。今しかないのだ。山下達郎も新曲で「僕たちの夏はまだ終わらない」と歌っている。 =敬称略=(スポニチ編集委員)

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