【内田雅也の追球】阪神 “超変革”「こんなはずじゃ」と思う今、大切なのは…

[ 2016年9月4日 12:05 ]

<神・D21>8回、石川のゴロを大和(左)は好捕するも、北條へのトスが高く浮きアウトをとれず

セ・リーグ 阪神2―3DeNA

(9月3日 甲子園)
 今春公開の映画『海よりもまだ深く』(監督・是枝裕和)で、離婚で別れて暮らす家族が台風の夜、実家で一つ屋根の下に集まることになった。深夜、父は息子を公園の滑り台に誘いだす。

 将来についての雑談で息子に「パパはなりたいものになれた?」と聞かれた父は一瞬言葉に詰まる。迎えにきた妻に「こんなはずじゃなかったよなあ」とつぶやく。

 今の阪神である。誰もが「こんなはずじゃ」と思っていることだろう。敗戦後、記者席やエレベーターで出くわした多くの評論家も「おかしい」と首をひねっていた。

 4年ぶり7連敗。借金はワーストタイの15まで膨らんだ。クライマックスシリーズ(CS)進出の3位どころか、最下位を案じる位置に落ちた。

 この夜の試合も何か歯車がかみあわなかった。打者と走者で2度、守備妨害をとられた。6回裏、一塁走者・北條史也が二塁守備を妨害したとの判定には監督・金本知憲が猛抗議した。気持ちはわかるが、判定は判定だ。従うほかない。

 逆転された8回表は守備が乱れた。1死一塁から二塁寄りのゴロを好捕した二塁手・大和だが、遊撃への送球が高く乱れた。グラブトスで、しかもバックトスだった。高度な技術を持つ大和だが、そこまで慌てる必要があったかどうか。

 2死一、二塁からは筒香嘉智の左翼前方への飛球を高山俊が捕れず、テキサス二塁打となり、2者生還を許した。風はいつもの浜風ではなく、右翼に向けて吹いていた。外野守備コーチ・中村豊は「頭上を越されてはいけない場面。守備位置は間違っていないし、高山のスタートも悪くなかった」と話した。当たり損ないの打球に高山も慌てたことだろう。

 今は慌て過ぎないことだろう。開高健がラテン語の名言を訳した「悠々として急げ」という言葉がある。急ぐばかりでなく、時には泰然と考える時間がいる。プレーにも、チーム作りにも通じている。スローガンの「超変革」は急ぐばかりでは成り立たない。

 冒頭の映画で、父親は「パパはまだなれてない」と正直に答え、息子や自分に言い聞かせるようにつぶやく。「でも、大切なのはそうなりたいと思う気持ちを持ち続けることなんだよ」

 「こんなはずじゃ」と思う今、チームもフロントも心しておきたいセリフである。=敬称略=(スポニチ本紙編集委員)

続きを表示

2016年9月4日のニュース