マリナーズ・青木宣親 感情豊かなベテランを無表情にした“無慈悲な壁”

[ 2016年9月3日 11:00 ]

マリナーズ傘下の3Aタコマの施設で黙々と打ち込む青木

 感情を全く表に出さず淡々とプレーするマリナーズの青木宣親。メジャー1年目から取材しているが、初めて目にした光景だった。

 フィールド上で見せる豊かな感情が青木の魅力の一つ。安打を打った時にはにかみながら決めポーズをしてベンチに視線を送る姿、盗塁を試みた時に塁上でセーフを必死にアピールする姿、内角への際どい球を大げさまでに避ける姿。守備ではスライディングキャッチで捕球したライナーがビデオ判定となると、一瞬不安な表情を見せ、アウト判定となると一転、セーフだと騒ぎ立てていた敵地のファンに小さくガッツポーズ。挙げればきりがないが、試合中にコロコロと変わる表情を楽しみにしているファンも多かったはずだ。

 しかし、8月29日、今季2度目のマイナー降格で傘下の3Aタコマのフィールドに立った青木は「無表情」だった。試合後、こんな言葉を漏らした。

 「正直、今日はどういう表情をしていいか分からなかった。ヒットを打っても何も感じなかった」

 1度目の3A降格はある程度納得できた。打撃での感触の良さとは裏腹に数字が残せず、これまで得意としていた対左腕の打率は・177にくすぶっていた。「もう少し左が打てるようにしてほしい」と、スコット・サービス監督から課題を渡され、「仕方ない。何も言い返せる材料がない」と受け入れるしかなかった。メジャー5年目で初のマイナー降格。ふとした瞬間に「ふわっと入ってくる現実」を押し殺しながら復調へ打ち込んだ。打率・369と結果を残し、7月20日にメジャーに復帰した。

 以降、うっぷんを晴らすように打ちに打ちまくり、復帰後の打率は・316。これは後半戦でチームNo.1の成績だった。左腕が相手の先発出場は1度しかなかったが「与えられたところでしっかり結果を残していくしかない」と対左腕も復帰後は13打数5安打、打率・385と打っていた。

 ところが、8月26日のホワイトソックス戦後、何の前触れもなく監督室に呼ばれた。「プレーに関しては本当によくやってくれている。ただチームには今は投手が必要」と降格を告げられた。若手選手が戦略的処置でマイナー、メジャーを行き来することは珍しくない。しかし、メジャーでもベテランの域に入り、好調だった青木に対してのこの決断。サービス監督の横に立つジェリー・ボットGMからは「So sorry(本当に申し訳ない)」と言われた。しかし、プレーオフ進出を懸け、地区首位レンジャーズの本拠地テキサスへ乗り込む直前の出来事に2人の顔を見ることもできなかったという。自分はなぜマリナーズに来たのか?という思いが頭をよぎったに違いない。

 「メジャー5年目、これまでも苦しいことだらけだった。いつも何かしら壁が立ちはだかってきたけど、いつもそれを乗り越えてきている」と青木は話す。これまでは課題があり、理解できる壁だった。しかし初めて立ちはだかった無慈悲な壁。3Aのシーズンが終了する9月5日以降のメジャー復帰は保証されているが、今度はどう乗り越えるのか。早く表情が豊かな青木の姿をフィールドで見たい。(小林 由加通信員)

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2016年9月3日のニュース