プライドの再生 新人監督・高橋由伸の采配の信念とは…

[ 2016年8月30日 09:30 ]

試合中に苦笑いを浮かべる巨人・高橋監督

 さて、どうなんだろう。プロ野球シーズンが最終盤にさしかかり、ふと沸いた疑問。巨人・高橋由伸監督の采配とは…。レギュラーシーズンはまだ終わっていないが、整理できていなかった疑問の答え(に近いもの)を整理してみようと、ここまでの戦いぶりを振り返ってみた。

 8月28日、118試合を消化した時点でのデータだ。60勝55敗3分けでリーグ2位。DeNA、阪神、楽天と新監督が誕生したチームでは最上位だが、首位・広島には11ゲーム差をつけられた。本塁打数や得点、防御率や失点など選手の個人成績から起因する数字は、ここでは割愛。注目したのは選手起用。特に野手の起用法だ。昨年、巨人の野手は33選手が1軍出場した。今季はここまで32人とほぼ昨年に匹敵しているが、明らかに違いが出るのがクリーンアップに関わる数字だ。

 「中軸」。文字通り打線の中核を担う3、4、5番。今季、最も指揮官の思いが表れているのが、中軸の起用法だと考える。118試合を終えて3番は坂本が113試合で、長野が5試合。しかも、長野の5試合は坂本が足のコンディション不良でスタメンを外れた試合で、ほぼ坂本固定といえる。また4番はギャレットで開幕し、最初の41試合は病欠した1試合を除き辛抱強く動かさなかった。その後、クルーズを挟み、長野、阿部と変わったが長野も40試合連続、その後は阿部が29試合連続で4番を務めている。5番もクルーズから長野、阿部、村田で114試合。それ以外は亀井、アンダーソンが2試合ずつ出場しただけだ。

 注目すべきはその人数だ。3番は2人、4番は4人、5番は6人で延べ12人だが、クリーンアップを務めた内訳では8選手にとどまっている。野手全体の起用人数がほぼ同じ昨年はどうだったか。3番は7人、4番は8人、5番は10人で延べ人数は25人。選手の内訳は15人で、今季のほぼ倍だった。前任の原監督はやりくり上手の監督だった。苦しい局面を打破するために、様々な手を打ったといえる。一方の高橋監督はでき得る限り動かない。短絡的な例えだが、原監督が「鳴かぬなら鳴かせて見せよう…」の秀吉なら、高橋監督は「鳴くまで待とう」の家康というイメージだ。

 7月。前半戦のオーナー報告後、老川祥一オーナーが高橋監督の手腕についてこうコメントした。「表情が乏しいとか、いろんなファンの声があるのは知っていますけど…」。おそらく試合後のインタビューなどでコメントも少なく、深く語らない指揮官の立ち居振る舞いを受けてのことだろう。でも、根底にある信念は頑固なくらい一貫している。振り返ってみると、高橋監督のこんな言葉があった。「選手の能力をとにかく発揮させたいという考えがある」。2月25日、春季キャンプの総括での言葉だ。

 常勝を義務づけられた老舗球団。ここ数年、勝利を目指したやりくり野球で、中心選手、主軸選手というプライドが失われていたと感じていた。高橋監督の言う「選手の能力」は、単なる成績ではないのだろう。坂本、ギャレット、クルーズと助っ人で開幕したクリーンアップは今、坂本、阿部、村田が担っている。さらにチームを強くするのは、それを脅かす若い力の台頭だ。(春川 英樹)

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2016年8月30日のニュース