ヤンキース浮上の陰で…「犠牲」になったAロッド

[ 2016年8月30日 11:10 ]

引退試合後、ヤンキースタジアムの土を手に取るアレックス・ロドリゲス

 正直、驚かされている。7月下旬に主力を大量放出し、来季以降への再建モードに入ったヤンキースの健闘ぶりだ。

 8月の勝敗は15勝10敗(28日現在、以下同)で既に月間勝ち越しが決定。月間のチーム打率・275、133得点はいずれも両リーグ6位で、ア・リーグ東地区ではトップの数字である。ワイルドカード争いも圏内まで3・5ゲーム差。2枠をめぐり7チームがひしめく混戦に加わっている。

 チャプマン、ミラーと大リーグ屈指の救援2投手、主軸で最も好調だったベルトラン、先発陣の一角ノバらが次々と去っていくのを、現場で目の当たりにした。常勝が宿命づけられる中で、チームが解体されていく状況に誰よりもショックを受けていたであろうジョー・ジラルディ監督は気丈に「白旗を揚げたわけではない」と繰り返していた。その言葉を真に受けている担当記者は私も含め、ほとんどいなかったと思うが、現状を見れば恐れ入るしかない。

 現在11勝4敗の田中の好調ぶりが際立っているのはもちろんだが、最大の要因を挙げるなら、来季まで契約が残っていたロドリゲスに、球団がシーズン中の引退を決断させたことだと私は思う。歴代4位の通算696本塁打を誇る大打者は、今季出場65試合で打率・200、9本塁打、31打点。おそらく契約上、マイナーにも落とせなかったはずだ。大リーグ史上最速ペースとなる通算23試合で11本塁打を記録した23歳サンチェスのブレークも、Aロッドの引退なしでは実現しなかった。

 とはいえ、個人的にはロドリゲスが去るのを惜しんでいた一人である。不振にあえぐ中でも、41歳が時折見せる放物線は誰よりも力強く美しかったし、早出練習など野球に取り組む姿勢がおろそかになることはなかった。薬に頼っただけで696本を打てるものではない。薬物規定違反により14年のシーズンを全休し、1年のブランクを経た昨季。復活には誰もが懐疑的だったが、10年以来の30発超えとなる33本塁打を記録して驚かせた。

 8月12日のレイズ戦で行われた引退セレモニーは雷雨の中で行われ「こういう運命か」と苦笑。後日、今季中の現役復帰については完全否定した。ある意味で、チーム再建の犠牲になったヒール(悪役)。引退を撤回して来季以降、他球団でプレーすることになっても驚かないし、むしろ歓迎したい。(記者コラム・大林 幹雄)

続きを表示

2016年8月30日のニュース