【内田雅也の追球】虎打線 “頭で投げる”石川との読み合いで苦戦

[ 2016年8月28日 09:42 ]

<神・ヤ>3回1死一、二塁、北條は石川から右前適時打を放つ

セ・リーグ 阪神2―5ヤクルト

(8月27日 甲子園)
 北條史也が3回裏に放った適時打に、阪神が石川雅規を攻略する糸口が見えた気がした。打った球は1死一、二塁から外角低めへのシンカー。石川得意の球種だった。

 右打者の外へ、逃げながら沈んでいくシンカーは米国の俗称で「死んだ魚」(dead fish)と呼ばれる。球筋がふわふわと水中をさまようような動きをするからだろう。

 この魚を捕まえるのは難しい。普通に打ちにいくと引っかけてゴロになる。また、いわゆる「押っつけて」打つと「ファウルにしかならない」と落合博満も語っていた。

 この時の北條のように左肩を開かず、ヘッドを利かして強く叩くと、二塁頭上など中堅から右方向へのライナーとなる。

 北條は右打者が石川を打つお手本を示したわけだ。この回は先頭の坂本誠志郎も外角シュートを中前へはじき返していた。右打者は外角寄りの球(シュート、シンカー、チェンジアップ)を中堅から右方向へ、という攻略が見えていた。

 だが、光が見えたと思ったのもつかの間だった。その後、石川は外角へまともに投げて来なくなった。来てもボール球。だから北條もシンカーを空振り三振(6回裏)、チェンジアップに三ゴロ(8回裏)と、もう捕まえられない。つまり「魚」たちは、1尾捕まえた後は、もう寄っては来なくなっていた。

 逆に右打者内角へのカットボール、スライダーが中心となった。配球を変えたわけである。

 『頭で投げる。』(ベースボール・マガジン社新書)という著書がある頭脳派である。若手主体の打線はプロ15年目との読み合いで苦しんだとも言える。

 石川のその著書で初のクライマックスシリーズ(CS)進出を決めた2009年10月9日、阪神戦(神宮)に多くを割く。1点リードの7回表2死満塁で4番・金本知憲(現監督)を捕邪飛に取ったシーンがある。

 初球、外角低め狙いのスライダーが高く浮いた。<あっ>と思った。<僕としては、気持ちで勝ったと思っています。金本さんは力が入ったぶん、ミスショットしてくれたのだと思います>。

 もちろん頭や読みも重要だ。だが「頭で投げる」と自負する石川も気持ちを強調している。

 CS争いは三つ巴(どもえ)で最終盤を迎える。もう心の勝負である。 =敬称略=
 (スポニチ本紙編集委員)

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