ヤクルト山田 高校時代に覚醒をもたらしたPLとの2試合

[ 2016年8月6日 09:50 ]

ヤクルトの山田哲人内野手

 間もなく、甲子園本大会が幕を開ける。今年の地方大会も接戦、番狂わせのゲームが多く、見どころに尽きなかった。

 そんな高校野球の大きなトピックスとして上げられるのが、「名門・PL学園最後の夏」ではないだろうか。春夏合わせて7度の全国制覇、甲子園歴代3位となる通算96勝、プロで活躍した卒業生たち……。様々な視点から、改めてPL学園のこれまでの功績にスポットが当たった。

 PL学園が果たした功績にひとつつけ加えることがあるとすれば、その存在がPL学園以外の球児たちにも大きな影響を与えたことだ。「打倒PL」を目指して日々の練習に励み、プロ入りを果たした野球人は実に多い。

 その中のひとりが、今をときめく球界スター、山田哲人(ヤクルト)だ。 

◎今ひとつ目立たない選手・山田哲人

 絶好調の筒香嘉智(DeNA)の猛追にあい、三冠王には強烈なライバルが出現したが、史上初の2年連続トリプルスリーに向けては視界良好だ。球界を代表する選手……というよりも、すでに球史を代表する選手になりつつある。

 球界屈指のスーパースターとなった山田哲人だが、履正社時代、2年秋頃までの山田は、のちにスターになるどころか、プロに入れるほどの選手だとは思われていなかったという。

 確かに運動神経はよかった。野球センスも抜群。強豪・履正社でも1年夏からベンチ入りを果たし、2年夏にはクリーンナップも務めた。強豪校のレギュラーとして、まぎれもなく「いい選手」だった。でも、「今ひとつ目立たない選手」と評価されることも多かった。

 「今ひとつ目立たない選手・山田哲人」。その姿に誰よりも不満を抱いていたのが岡田龍生監督だった。「なんてもったいない選手だろう。もっとやる気を出せば、もっとすごい選手になれるのに」といつも思っていたという。

◎PL学園戦でのエラーがもたらした意識改革

 そんな山田が変わるキッカケが、2年秋の大阪大会、準々決勝でのPL学園戦だった。この試合で山田はフライを落球。チームの敗戦につながる痛恨のエラーを犯してしまう。当然センバツ出場には届かず、試合後、涙が止まらないほど悔しがる姿があった。

 山田がチームの誰よりも練習するようになったのは、この敗戦の後からだった。この頃から「プロに行きたい」と口にするようになり、目的意識が芽生えたことで、野球に対してはじめて本気で取り組むようになったのだ。

 その成長スピードは、岡田監督が「人間は意識が変わるだけでこんなに変わるのか!?」と驚くほど。3年春になる頃には、大阪では誰もが認める評判の選手になっていた。

◎40度の高熱に負けず放った、意地の同点打

 PL学園戦でのエラーをキッカケに自らを見つめ直し、急成長を遂げた山田。迎えた最後の夏、甲子園を目指した大阪大会4回戦で対戦したのがPL学園だった。

 試合は8回を終えて5対7と、履正社が2点を追う展開。9回表、最後の攻撃は1死二、三塁。一打同点の場面で、打席には山田。ここで見事に同点タイムリーヒットを放ち、延長戦で履正社が逆転勝利を果たした。

 実はこの試合、山田は40度近い高熱に耐えながらプレーしていた。チームの主軸として、甲子園、そしてその先のプロに進むために、意地で放った一打だった。

 PL学園戦での勝利によって勢いに乗った履正社は、激戦区・大阪大会を勝ち上がり、13年ぶりとなる悲願の甲子園出場権を獲得。大阪大会での山田は打率4割を超え、13打点を記録した。

 その活躍がフロックではないことを証明したのが甲子園でのプレーだ。山田は1回戦でホームスチールを成功させて、野球センスの高さを見せつけると、2回戦では聖光学院の歳内宏明(現・阪神)から、同点に追いつく2ランホームラン。勝負強さとパンチ力も披露した。試合には敗れてしまったものの、この甲子園での活躍によって、秋のドラフトで1位指名を果たしたのだ。

◎群雄割拠の高校野球。盟主になるのはどの高校か!?

 以降の活躍ぶりはあらためて記すまでもないだろう。強調しておきたいのは、PL学園戦でのエラー、そして起死回生の同点打。このふたつのプレーが今の山田哲人を形成する上で欠かせない要素だった、ということだ。

 そしてあらためて思う。これからの高校球界で、「打倒PL」と誰もが目標にするようなチームはどこになるのだろうか? と。例年であれば、平成最強横綱・大阪桐蔭や昨夏の覇者・東海大相模、昨春のセンバツ覇者・敦賀気比などがその第一候補。だが、今年の夏はそろって敗れ、甲子園には姿を見せない。

 まさに群雄割拠。新たな時代を迎えようという高校野球と甲子園大会。球児たちの一投一打から目が離せない日々が、間もなく始まる。(『週刊野球太郎』編集部)

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2016年8月6日のニュース