【内田雅也の追球】金本監督 ここぞの場面ではスリーバントの信念

[ 2016年8月6日 09:14 ]

<ヤ・神>5回無死二塁、藤浪がスリーバントで送りバントを成功させる

セ・リーグ 阪神―ヤクルト

(8月5日 神宮)
 阪神監督・金本知憲は現役引退から昨年までの3年間、スポニチ本紙評論家だった。何度か「もっとスリーバントをすべきではないのか」と話していたのを覚えている。

 送りバントの場面で、ファウル失敗などで2ストライクとなると、サインを取り消したり、ヒットエンドランや進塁打に作戦を変更する光景に自問自答していた。

 「守る側は2ストライクと追い込むと、それまで激しかった一、三塁手のチャージなどバント守備が緩む。ならば、バントをやりやすい状況になるということでしょう。スリーバントは作戦として危険ではなく、成功する確率が高いですよ」

 あの思いは今も生きているのだろう。この夜、スリーバントの有効性を信じる場面が相次いだ。

 5回表、先頭の北條史也が二塁打した無死二塁。藤浪晋太郎は送りバントでファウル、見逃しと追い込まれ、カウント1ボール2ストライク。金本はスリーバントを命じた。藤浪は一塁前に丁寧に転がし送りバント成功。直後に高山俊が右前適時打して貴重な3点目が入った。

 さらに8回表、連打でつくった無死一、二塁。江越大賀は送りバントを2本ファウルしてカウント1―2となったがバントで続行。同じく一塁前にスリーバントを決めた。2死後、再び高山の中前2点打で実った。

 ともに2ストライクとなって、一塁手・今浪隆博の前進チャージはやや緩んでいた。

 通常、走者一、二塁や二塁での送りバントは三塁側を狙うのが定石である。三塁上での走者封殺や刺殺のため、三塁手が前に出られないためだ。ただし、投手も三塁側にはさせまいと、右打者には外角中心に攻めてくる。三塁側に転がすのは容易ではない。

 ならば2ストライクで前進が緩んだ一塁側に転がす手が生きてくる。藤浪のバントは外角高めボールぎみの直球、江越のは外角寄りカットボールで、ともに三塁側には難しい球だった。スリーバントだからこそ、成功した犠打とも言える。

 むろん、打者にも「もう失敗はできない」と追い詰められた必死さがあったろう。

 阪神の犠打は103試合で52個と12球団最少である。だが、金本は何もバントを嫌っているわけではなかろう。ここぞの場面ではスリーバントを強いる信念も持ち合わせている。 =敬称略=
 (スポニチ本紙編集委員)

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2016年8月6日のニュース