大谷が二刀流でプレーする理由 優先するのは「勝つために何ができるか」

[ 2016年8月3日 18:25 ]

<ロ・日>試合前、OKサインを出す大谷

 そば屋なのにカレーライスがうまい、とはたまに聞く話だ。だが、高級すしと焼き肉を看板にした上にそばも絶品――。そんなレストランが存在するかは知らないが、似た野球選手ならいる。

 160キロ台の速球を投げ込み、ホームランを連発し、二刀流の看板を背負う。それなのに走塁が絶品。日本ハムの大谷翔平投手は走塁が抜群に面白い。1メートル93の長身を生かした歩幅と100キロ級の体重で地面をかむスピード。おそらく「足」だけでもプロでメシを食える選手だ。

 パ・リーグの公式動画配信サイト「パ・リーグTV」が興味深いデータを掲載した。7月27日の西武戦(西武プリンス)9回の5打席目で放った遊撃内野安打。一塁までの到達タイムは3秒84で同僚の西川や西武・秋山ら球界屈指の俊足左打者とほぼ同じ。同サイトの計測ではロッテ・岡田の3秒77に次いで今季リーグ2位のタイムは大谷が6月29日の西武戦(札幌ドーム)で記録した3秒80だという。

 スピード以上の魅力は意識の高さだ。27日の試合後に話を聞くと「(内野安打は)普通のヒットより価値がある。普通に捕ればアウトになる打球がセーフになれば(相手は)嫌」と言った。そして紙一重で二ゴロに終わった1打席目を振り返り「あれもセーフになればよかった」と後悔してみせた。

 打ち取った当たりが安打になれば投手のダメージは大きい。同じ投手だから分かる心理などではない。それが野球というスポーツの本質だからだ。試合に勝つために何をすべきか。大谷という男はマウンドや打席だけではなく塁上でもその本質を追求する。同じ試合で3度出塁すると、相手のバッテリーエラーにつけ込み2度進塁に成功。26日の西武戦(西武プリンス)では返球の方向で即座に判断し、右前適時二塁打という離れ業もこなした。

 大谷をDH起用するのは、守備でむちゃをしてケガをしないようにという日本ハム球団の配慮だ。同じ理由で接触プレーが生じるケースの盗塁も自粛させている。制約を与えないとあらゆるプレーに極限を尽くそうとする。試合に勝ちたい一心で――。それが二刀流の根源だ。「野手の方が稼げる」「投手の方が大リーグで通用する」。そんな陳腐な議論は無用。大谷が優先するのはルールの中で試合に勝つために何ができるかだけ。その答えが「二刀流」なのだ。

 最高級の味が何種類も楽しめる。グルメリポーターの彦麿呂なら「大谷は野球選手の満漢全席や~」と称えることだろう。(君島 圭介)

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2016年8月3日のニュース