最短6年…NPB審判への長い道のり 「アンパイア・スクール」とは?

[ 2016年8月2日 11:53 ]

「ゴー・ストップ・コール」という独自のトレーニングを行う研修審判員

 日本野球機構(NPB)が13年から導入した「アンパイア・スクール」から始まる審判養成のシステムは軌道に乗り始めている。1軍の試合をジャッジするまでには最低6年以上はかかる。意外と知らないNPB審判員誕生までの流れをたどるとともに、長く険しい道のりで求められる審判像とは何か――。(倉橋 憲史)

 正確なのは当たり前、ミスジャッジは許されないのが審判員の世界である。その世界で生き抜こうと必死に研さんを積む「研修審判」4人が7月5日、埼玉・戸田にいた。四国アイランドリーグplus、ルートインBCリーグに2人ずつ派遣されているが、久々に1カ所に集まり、日々の成果を披露する場がイースタン・リーグのチャレンジマッチ、フューチャーズ戦だった。

 試合前、ブルペンで技術指導員が見守る中、投手の一球一球に張りのある声でコールする。腰の落とし方、タイミング…。全てがチェックの対象だ。そして実技が終わると、すぐに陸上競技場で「ゴー」「ストップ」「コール」の基本動作を何十回も繰り返した。審判技術委員の山崎夏生氏の「圧倒的な量が大事。質を求めるのは10年先だ」の声に「ハイ」と呼応するタイミングも4人そろっていた。

 試合は2人制で行われる。球審の松本大輝さん(19)は昨年まで神港学園で甲子園を目指した高校球児だったが「プレーするよりも難しいです」と話す。塁審を務めた木村将也さん(21)は「生活から、常に人より先に動く、人が考えるより先に考える。日ごろから審判に向けて生活していくことが大事」と真っすぐに前を向いた。

 13年から始まったアンパイア・スクール。応募者130人前後から書類選考などで約60人に絞られる。約1週間のスクールでは、球場で6時間の指導、夕食後に2時間30分の座学がある。審判技術委員長の井野修氏は「テスト(実技や筆記)で100点を取るにこしたことはないが、技術は審判の道に進めば自然と身に付く。ひたむきな姿や体の切れ、協調性を見ています」と話す。合格者は若干名。2月の宮崎キャンプでの2次試験を突破して、研修審判として採用される。

 だが、ここからが本当の戦いだ。研修審判は独立リーグで1~2年は経験を積む。1カ月に1度、リーグからリポートが入る。そこには20前後の項目に「A~D」の判定が下されている。最終的には、11月のフェニックス・リーグが育成審判へ「昇格」する最終試験の場だ。「育成審判」はプロの2軍戦で3年程度経験が必要。NPB審判員となっても、2軍で3年前後、経験を積む必要があり、1軍までの道のりは6年以上かかる。審判員は1年契約の年俸制。どこまでも査定がつきまとう。

 収入面も「研修審判」はリーグ戦が行われる6カ月で約100万円。「育成審判」は1年契約で約300万円程度。BCリーグに派遣されている研修審判は熊谷市内の一軒家を借りて共同生活している。夜はテレビで1軍の試合を見て先輩の動きから学ぶ。審判漬けの日々が続いている。

 今年はコリジョン(衝突)ルールが議論を呼んでいる。「ジャッジ」には厳しい目が注がれる。監督の抗議への対応力、場内ファンへの説明の明快さなども求められる。34年で2902試合の出場を誇る井野氏は「私の中でベストゲームは一つもない。必ずどこかに自分で反省すべき点がある」と話した。逃げ場のない審判員の世界。厳しい道のりは人間力を磨く意味でも、必要不可欠な過程といえる。

≪審判界のあれこれ≫
 ☆スロットポジション 審判の立ち位置を表す言葉。実際、審判はホームベースとバッターボックス内角のラインの間に体の中心を置く。ホームベースの中心に立つと、ファウルが顔面に当たって故障するリスクを回避するため。

 ☆オリジナルポーズは? 敷田直人審判員が行う、見逃し三振のコールをする際の「卍(まんじ)ポーズ=写真」は有名。全員に許されるわけでなく、1軍の審判員を初めて務める年の、1月の審判合宿で技術委員に披露し、お墨付きを得る必要がある。

 ☆NPB審判員の給料 年俸制で毎年12月に契約更改を行う。トップの審判員は諸手当も含めると1500万円以上ともいわれる。

≪スクールから初審判員 青木さん「愚直に」≫
 今年、スクール修了者として初のNPB審判員となったのが青木昴さん(22)。「(スクールでは)今でも連絡を取り合う仲間、友人ができた」と振り返る。そして将来の審判員を目指す後輩に「謙虚に、素直に、愚直に頑張ることが一番の近道だと思います」とエールを送った。

≪第4回スクール 12月17日~開催≫
 プロの審判員を目指す人などを対象とした「第4回NPBアンパイア・スクール」は12月17~23日にロッテ浦和球場で開催される。現在、募集期間中で、今月31日まで受け付けている。応募資格は来春卒業見込みを含む高卒以上で、受講料は8万3000円(税込み、宿泊費・食事込み)。応募方法などの詳細はNPB公式サイトまで。

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