【内田雅也の追球】「すべてトリ自身の問題よ」先発落ちは勝利追求の一コマ

[ 2016年7月25日 07:50 ]

金本監督が書いたメンバー表

セ・リーグ 阪神8―5広島

(7月24日 マツダ)
 鳥谷敬が先発メンバーから外れたと発表された時、阪神OB会長・川藤幸三と喫煙所にいた。

 「そうか」と川藤は驚きもせず、煙を吐き出した。いずれ訪れる時が来たのだ。それほどの打撃不振、守備不振だった。試合前練習で大和が遊撃で、鳥谷は三塁でノックを受けていた。予感を抱いていた。

 「すべてトリ自身の問題よ」と川藤は言った。「ここまで長く出続けてきたのも自分。外れることになったのも自分に問題があるわけやろ」。667試合連続フル出場は鳥谷の功績であり、2割3分台の低打率も失策10個も鳥谷の不振である。誰の問題でもない。

 「これで切れてしまえば、それだけの選手ということよ。真価が問われるのはこれからよ、これから」。現役時代、主に代打としてベンチにいた川藤の言葉は、ベンチに座って試合に入る鳥谷へのエールに聞こえた。

 決断を下したのはむろん監督・金本知憲だ。話し合ったことだろう。金本も連続1492試合フル出場していた2010年4月18日、横浜戦(横浜)で監督・真弓明信に「これ以上迷惑はかけられない」と自ら先発から外れると申し出た。右肩負傷に悩まされていた。

 元祖・鉄人のルー・ゲーリッグ(ヤンキース)が2130試合連続出場を止めたのは39年5月2日。監督ジョー・マッカーシーに「今日はベンチにいるよ」と伝えた。「自分がどんなにダメか、どれだけチームに迷惑をかけているか、誰も教えてくれない。だから自分で決めるしかない」。

 偉大になればなるほど孤独なのだ。自分を客観視する目がいる。チームを見渡す目でもある。金本もゲーリッグもチームの勝利を大前提としていた。鳥谷が目指すのもむろん、勝利だろう。

 金本が外れた試合は8―4で、ゲーリッグが外れた試合は何と22―2で勝っている。この夜も4時間20分の苦闘の末、勝った。途中出場の鳥谷も適時内野安打に押し出し死球と、泥くさい2打点で貢献した。勝利のハイ・ファイブでは少し笑顔も浮かんでいた。この味を忘れないことだ。

 鳥谷は違うと否定するかもしれないが、十分なスター選手である。チームのキャプテンを務め、年俸4億円(推定)、5年契約の2年目だ。まだまだ働く責務がある。

 大事件のようだが過ぎてしまえば何ということはない。勝利追求の一コマだった。 =敬称略= (スポニチ本紙編集委員)

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2016年7月25日のニュース