【内田雅也の追球】阪神 9回裏の異例「敬遠策」の意味と執念

[ 2016年6月27日 09:45 ]

<広・神>9回1死一、三塁、新井は敬遠の四球で歩かされる

セ・リーグ 阪神3―4広島

(6月26日 マツダ)
 息を詰めて見守る中、思わず「えっ!」と声が出た。阪神の捕手・原口文仁が立ち上がったのだ。

 敬遠だ。1点リードの9回裏、1死一、三塁(二、三塁ではない)、打者・新井貴浩のカウントが2ボールとなって、阪神ベンチは敬遠、満塁策を指示したのだった。

 逆転サヨナラの一塁走者が得点圏に進む。リスクを負っても、この9回裏で勝ち切ろうという大勝負に打って出た。一つの執念の形である。

 「ええ、そうですね」と作戦兼バッテリーコーチの矢野燿大がうなずいた。「あの回で勝とうという意味になりますね」

 好投の先発・岩貞祐太も新井には相性が悪かった。左翼席へ本塁打を浴びた。二直も痛打だった。三振も3連続ファウルでヒヤリとしていた。

 「これまではそうでもなかったが、今日に関しては、新井は(岩貞に)合っていた。カウントも悪くなったし、それなら次の下水流、会沢の方が打ち取れる確率が高いと考えた。守りやすくもなる」。激痛の敗戦だが、私服に着替え終えた矢野は冷静に振り返った。二遊間は中間から前進守備に、内野陣はバックホーム態勢を敷いた。

 敬遠策に驚きはしたが意図は理解できる。たとえ、塁をいくつ埋めようとも、本塁さえ与えなければ失点にならない。

 この防御を今回の広島3連戦の第1戦(24日)で「意味ある四球」として書いていた。あの夜は2―2同点の8回裏2死一、二塁で藤川球児が新井に決勝の三塁打を浴びた。“三塁が空いていた”と四球で満塁にしても、しのぐ術を書いた。

 この日は2死満塁までこぎつけたが会沢翼に三遊間を割られ同点。左中間飛球を左翼・俊介と中堅・中谷将大が激突、落球(記録は中堅手失策)して悲劇の幕は下りた。

 野球を愛する作家ロジャー・エンジェルが『憧れの大リーガーたち』(集英社文庫)に書いていた。<考え抜いていても毎日の試合ごとに予期しないことが起こる。それほど厳しい環境が野球なのだ>。その通りだ。

 敬遠で二塁進塁を与えた鈴木誠也がサヨナラの本塁にかえった。策は裏目なのは確かだ。だが結果論で批判しようとは思わない。そして執念は実るとは限らない。

 阪神は勝負にいき、そして敗れた。それだけだ。これが勝負の世界、プロの野球だ。最下位へ0・5ゲーム差という厳しい現実も受け入れるしかない。 =敬称略=
 (スポニチ本紙編集委員)

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2016年6月27日のニュース