「違い」を追い求める姿勢に見た田中の“メジャー精神”

[ 2016年6月17日 09:45 ]

ヤンキースの田中 (AP)

 メジャーの取材現場でよく耳にする言葉が「different」。形容詞なのだが、直訳では「違った~」か。選手が活躍すれば「今日は何が違ったのか?」という質問が飛ぶ。「日本では何が良かったのか?」というところ。「違った~」という日本語の直訳以上に、肯定的な響きを含む。「(他人と、もしくは前回と)違うこと=良いこと」という文化が米国には強く根付いている。

 ヤンキース・田中将大の根底にも似たものを感じる。今では多くの野球少年が真似をする、胸の前にグラブを構えて左足を大きく外旋させる独特のノーワインドアップの投球フォーム。すっかり代名詞のようだが、かつては大きく振りかぶっていた時期もある。何しろ「極端に言えば、その日ごとの体の状態に応じて違いますから。同じフォームで投げたことはない」と口にするほどだ。

 今季もいくつもの「違い」を生んできた。最大の変化は投球プレートを踏む位置。これまで軸足の右足を三塁側へ置いてきたが、一塁側へ60センチもの引っ越し。新たに軸球となったシンカーを生かすためだが、5月21日のアスレチックス戦でぶっつけ本番に近い形で敢行。新居は居心地がよく、そのまま立ち続けている。

 最も驚いたのはその2試合前。5月10日ロイヤルズ戦で、途中からイニングごとや打者の左右に合わせ、三塁側や中央へ踏み位置を変え続けた。キャンプ中や節目で変える投手は決して珍しくないが、試合の中でここまで動くプロの投手は初めて見た。

 (1)ロケーションを変えず制球を安定させるため、(2)マウンドの踏み込む位置を掘って固めることで投球を安定させるため。2つの大きな理由で、少なくとも試合中は同じ踏み位置から投げるよう指導される。それは少年野球からプロの世界まで、投手の不文律に近い。

 その掟をいとも簡単に破った。風景はガラリ一変する。勇気のいる変化。「でも別に変化は怖れてないです。今までもその時その時で合うものをやってきた。いろいろトライして今の形をつくり上げてきた。変化を怖れていたら何もできない」。力強く前を見て、よどみなく答えた。準備期間はほとんどなかった。「そこはもう本人次第だと思うんですよね。他の選手もそうですけど。自分が本気でやろうと思うか、そうではないか。それだけの問題じゃないですか」。このロイヤルズ戦には敗れ、次戦では元に戻したが、しっかりと引き出しは増え、次々戦のアスレチックス戦からの4試合連続クオリティースタートの伏線となった。

 米国暮らしはまだなかなかなじまないというが、この常に「違い」を求めていく精神はメジャーの風土にマッチする。「different」。米国英語では褒め言葉として広く浸透している。(記者コラム・後藤 茂樹)

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2016年6月17日のニュース