能見 見せたベテラン「受け」の手筋 33球を費やして無失点

[ 2016年6月15日 07:45 ]

<神・オ>5回2死満塁、能見はT-岡田を遊ゴロにしとめる

交流戦 阪神2-0オリックス

(6月14日 甲子園)
 【内田雅也の追球】将棋でピンチの時に守ったり、踏ん張ったりするのを「受け」や「しのぎ」という。ここにも手筋がある。長年積み重ねてきた指し手で定着した方法である。受けやしのぎの手筋を多く持つ棋士は負けづらい。

 当代一のプロ棋士、羽生善治がピンチでのベテランの強みについて述べている。その著書『迷いながら、強くなる』(三笠書房)にある。<年齢を重ねてくると、ピンチの場面を迎えた時、経験に基づいて、どんな状況になっているのか、そこからどんな手段で抜け出せるのかを客観的に見るようになります>。

 なるほど、自分の置かれた立場を俯瞰(ふかん)するという意味だろうか。この冷静さは強みだ。

 この夜の阪神・能見篤史である。5回零封での4勝目はピンチをベテランらしく受け、しのいだのが要因である。

 2回表、5回表と2度の2死満塁のピンチを無失点でしのいで見せた。

 特に1点リードを守った5回表が渋く光る。2死一塁から3番・糸井嘉男に10球粘られた末に四球を与えた。2死一、二塁で迎えた4番・中島宏之にはフォーク、スライダー、チェンジアップ、直球で結果的にストレートの四球。2死満塁となったが、T―岡田を遊ゴロに仕留め、ピンチを脱出した。四球を与えようとも、満塁にしようとも、無失点で切り抜ければいいのである。

 試合後、作戦兼バッテリーコーチの矢野燿大もうなずいた。「あそこは能見がベテランらしさを見せてくれましたね」

 主軸を迎え、むろん長打はいけない。連続四球でじりじり広がるピンチにも能見は自分を客観視できていたのだろう。

 手筋は「ピンチの時は球数を使え」。野村克也も矢野もよく使う話であり、能見も十分承知だ。この回は実に33球を費やしての無失点だった。

 ピンチで能見は幾度も捕手・原口文仁のサインに首を振っていた。矢野が言う。「原口は自分のミス(1死からの振り逃げ)から招いたピンチでもあり、打者に合う球を要求したりしていた。そこを能見が自分のやり方でしのいだ。ええーい、といってしまうとやられていましたね」

 羽生も先の書で、チャンスでは強みの若手の大胆さは<かえって傷を深めて収拾がつかなくなります>と記している。

 ピンチでは勝負を急ぐな、という警句である。野球「受け」の手筋の一つである。 =敬称略=(スポニチ編集委員)

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