ダル 158キロ!670日ぶり1勝「苦しい時期はなかった」

[ 2016年5月30日 05:30 ]

<レンジャーズ・パイレーツ>最速158キロをマークし5回を1失点で670日ぶり勝利を手にしたダルビッシュ

インターリーグ レンジャーズ5―2パイレーツ

(5月28日 アーリントン)
 剛腕再び――。右肘のじん帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)から復帰したレンジャーズのダルビッシュ有投手(29)が28日(日本時間29日)、658日ぶりにメジャーのマウンドに立った。パイレーツ戦に先発し、5回3安打1失点で勝利投手となり、最速98マイル(約158キロ)を3度も計測した。1年2カ月に及んだリハビリを乗り越え、一回り大きくなった肉体と手術前を上回る速球をひっさげ、復活への第一歩を飾った。

 目いっぱい腕を振るためにメスを入れた。初回1死一塁、3番ポランコへ1ボール2ストライクからの4球目は、98マイル(約158キロ)を計測した。わずかに低くボールと判定されると、ダルビッシュは一瞬フリーズした後、息を吐いた。体に異常はない。全力の直球が、ストライクと判定されてもおかしくないコースへ、最高の切れで決まったことが大事だった。

 「マイナーで球速は出ていたけど、メジャーに来るまでは信じないと思っていた。ちゃんとスピードも出て、いい球を投げられたので良かった」

 続くスライダーで力ない遊直に料理。98マイルは計3球、97マイル(約156キロ)も5球計測した。メジャー自己最速は13年の99マイル(約159キロ)だが、手術前の14年は1試合の最速平均は96マイル(約154キロ)前後だった。明らかに速く、力強くなって戻ってきた。

 昨年3月17日に手術を受けた。じん帯は消耗していたが、裂けてはいなかった。それでもメスを入れた理由を、今春キャンプ終盤にこう明かした。「日本は完全にじん帯が切れないと手術しない。日本の病院は僕の肘を見て“手術の必要はない”と言った」。しかし、投手としての本能がささやいた。「損傷や少し切れても手術をしなければ、怖さが抜けない。いつ切れるのか、頭の深い部分にはある。しっかり腕を振れない現象が出る」

 成功率100%ではない手術よりも「腕が振れない」ことを恐れた。復帰までのリハビリ期間は、数年前まで主流だった12カ月ではなく、球団の提案を受けて14カ月と決断。「以前はみんな1年で戻ったけど、違和感や痛みが残ったり、再手術だったり。結局早いんだろうなと。術後3年目で良くなるというが、より時間をかけ、きちんとリハビリすればそうではないのではないか」。目指したのは復帰即、打者を圧倒する投球だった。

 5回に1点を失い、85~90球と球数制限されたため5回81球で降りたが、7三振を奪う圧巻のパフォーマンス。サインに首を振り速球系を投げるシーンも目立ち、シンカーとカットボールを合わせた速球系が62球と全体の77%を占めた。

 「シーズン通してどれだけ投げられるかが重要。今日だけで評価することはない」とゴールはここではない。球界への数々の提言は結果で示してこその思いもある。14カ月を「強がりでもなく苦しい時期はなかった。なぜかと言うと、そういう性格だからだと思います」と涼しく語るところはダルビッシュ流か。これは単なるエースの帰還ではない。壮大な実験であり、勇気ある挑戦だ。

 ▼パ軍、クリント・ハードル監督 映像で見るのと生では大違いだ。比較にならない。直球はうなりを上げ、変化球は効果的だった。

 ▼パ軍・ジェイソ(初回に中前打もその後2三振)いつものダルビッシュだった。特に良かったのは低めに球を集めていたこと。

 ≪日本人先発投手で最長ブランク白星≫ダルビッシュの白星は14年7月28日のヤンキース戦以来670日ぶり。これは、日本選手の先発でのブランク白星としては最長となる。救援勝利も含めると、大家友和の824日ぶり(07年ブルージェイズで4月29日に先発○→09年インディアンスで7月31日に救援○)、伊良部秀輝の716日ぶり(00年エクスポズで5月20日に先発○→02年レンジャーズで5月6日に救援○)がある。

 ▽トミー・ジョン手術の成功率 数年前までは「90%以上」と言われていたが、近年は再手術するケースも続出。アメリカンジャーナル・オブ・スポーツメディシンなどのデータによると、再びメジャーの舞台に戻った確率は80%前後で、1シーズンに10試合以上投げた確率は67%という。つまり、投手としては復帰できても、メジャーに定着できない投手が3人に1人。どのレベルで戻ってこられるかは、球団のリハビリ方針によって大きく差が出る。

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